「今月のプラチナ本」は、平松洋子『そばですよ 立ちそばの世界』

今月のプラチナ本

2019/1/5

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『そばですよ 立ちそばの世界』

●あらすじ●

都内にある個人経営の立ちそば26軒への探訪を記録したエッセイ。丹念な取材を重ね、店の成り立ちや味へのこだわり、街との関係性などを深く追求し、立ち食いそば文化を考察。食文化エッセイの第一人者がつづる、珠玉の一冊!

ひらまつ・ようこ●1958年、岡山県倉敷市出身。エッセイスト。東京女子大学文理学部社会学科卒業。世界各地を取材し、食文化や生活、文芸などをテーマに幅広く執筆している。2006年『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞受賞、12年には『野蛮な読書』で講談社エッセイ賞受賞。

『そばですよ 立ちそばの世界』書影

平松洋子
本の雑誌社 1700円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

ふだんは語らない店主たちの笑顔が見える

平松さんの食エッセイは、いつも敬意にあふれている。今回の対象は、立ちそば。本書の言葉を借りれば、「店の条件にそばの味を寄せて」いくことの創意工夫に対して、尊敬の眼差しが向けられる。店の立地と客層、調理場の狭さ、短い提供時間、価格は高くても500円台……「限られた条件のなかで、自分の味をつくらなきゃなんない」。難問をクリアしてきた店主たちは嬉しそうに語り、聞く平松さんは心底からわくわくしている。双方の笑顔が見えるから、読者は立ちそばに行きたくなる。

関口靖彦 本誌編集長。私もほぼ毎日、立ちそばへ。個人的ベスト3は水道橋「とんがらし」(閉店宣言されましたが(涙)、秋葉原「二葉」、新宿「かのや」。

 

読後、そばを食べないという選択肢はない

立ちそばのお店に入ったことがない。そば屋さんだけじゃなくて、立って飲食するどのお店にも。中でも立ちそばは、男性がガッと食べてサッと出る、というイメージがあって、のろのろ食べる私は邪魔になるだろうし、とハードルが高かった。本書を読んだ今でもハードルは高いままだけど、それ以上になんともおいしそうな店ばかりで、食べてみたい、という欲求が抑えられない。エッセイの合間にある店内やそばの写真がまたいい。平松さんのエッセイは本当にお腹がすく!

鎌野静華 昨年は旅行に一度も行けないくらい働いたので、今年は遊びたい! ただ占いに“今年は仕事や勉強に向き合う好機”と。いやいや!遊ぶから!!

 

くせになるヨーコ=ヒラマツの味

読み始めて4ページめ、「余計なことですが、私は、わかめはどっちでもいいです」。この緩急がたまらない。JR中野駅の駅前に位置する「田舎そば かさい」。私はこの店が気になっているのに、怖くて入れない。そんな「かさい」の紹介は、「東京行きの中央線の電車に乗るときは、四号車前寄りに決めている」という一文から始まる。もうこの時点で、心は電車に乗っている。腕が重かったはずの暖簾を押す。何のそばを食べようかなんて、頭が勝手に妄想を始める。校了したら、絶対行く。

川戸崇央 今月のトロイカのテーマは「字」。弊誌進行担当のYから寄せられた企画ですが、完膚なきまでに我々の書く字がこき下ろされております(主に私)。

 

銀座で“そば”はやっぱり素敵

平松さんのエッセイを読むとしあわせになる。今作もおそばと、作り手とのエピソードがふわっとした湯気を感じるようなあたたかい文章で紹介されていて、心地がよい。「銀座六丁目、路地裏の華」、銀座の「陶そば」。カウンターの“ママ”が素敵だ。泥酔気味の客に「もういいんじゃない?」。さらっとあしらってくれる女性って、とてもあこがれる。後輩の高岡が「会社から近い店もありますよ」と教えてくれた「稲浪」にも行ってみたい。弊誌編集部員、そばと著者の作品が皆、大好きなのである。

村井有紀子 『こんな夜更けにバナナかよ』大泉洋さんインタビュー(P124)。ダ・ヴィンチニュースで旭川の撮影現場に伺った際のマンガも配信しています!

 

立ちそばの正体

この本にも登場する、ある立ちそば店へ時々食べに行く。そばや天ぷらの味はもちろんだけど、じつは同じくらい店主の印象が強い。強烈なキャラクターというわけではない。いつも変わらず同じ味をたった一人で出し続ける姿に、心地よい距離感と親近感を覚える。エッセイではどの店も、そばの味よりそのお店や人の歴史について丁寧に紹介されている。それなのに読んでいると、どこからともなく出汁の香りが漂ってくるのだ。立ちそば店の味って、そうやって作られるのかも。

高岡遼 年末年始の冬の飲み会シーズンは締めのそばも最高ですね。生まれて初めて朝まで飲んだ後に食べた、新宿「かめや」。まさに思い出の味だなぁ。

 

ただの立ちそばガイドと思うなかれ

「店と味と土地は、ともに空気を醸成し合う」という言葉に深く納得。慣れた手つきで暖簾をくぐる常連客と店のあいだで交わされる最小限で美しいやりとり。そこには確かに、その土地の〈気配〉が凝縮されている気がする。新橋、本郷、銀座、早稲田……。東京の様々な土地の名店が登場するこの本は、至高の立ちそばガイドであると同時に、東京という都市を読み解くひとつの文化論でもあるまいか……なんて言いつつ、読後の正直な感想は「中延のコロッケそば食べたすぎ!」です。はい。

西條弓子 人生8回目の年末進行も超ピンチ!! わかってるならどうにかできるはずなのに、人間ってふしぎ……☆(関係者各位に全方位土下座)

 

熟練の技が生み出すうまさよ、万歳

食べ物を紹介するという点において、文字は画像に劣る。小誌で食べ物特集をするなら写真やイラストが必須だし、そもそも企画を立てる際は、プラスアルファが必要だ。もちろん本書にもグラビアはある──97頁目に。それまでに入っている写真はお店の外観、つまりは暖簾と地図くらいで、その他のビジュアルは一切なし。しかし、そんなことは関係ない。エッセイの名手である筆者が紡ぐ、そばへの情熱あふれる語彙と描写は、味と香りと歴史までも紙面向こうの読者に出前してくれるのだ。

有田奈央 今月はヒプマイ特集を担当! 取材中に見たアルタ前の光景は、圧巻の一言。「ピース!」を合い言葉に、本年もよろしくお願いいたします。

 

言語も世代も超越する存在、立ちそば!

立ちそばと、その店を取り囲む街の魅力をふんだんに紹介している本作。とくに、自分が大学時代を過ごした街についての章は、何度も繰り返し読んでしまった。土地について語るうえで、飲食店はこれほどまでに欠かせない存在だったのか! 語り継がれる名店の存在とその物語は、世代を超えた共通言語だと実感。どこで、何を、どんなストーリーで食べるのか。毎日の食事は私たちの身体だけでなく、思い出や価値観もつくるのだ。どこから読んでも、どこまで読んでも美味しい一冊です!

井口和香 立ちそばではないですが、浅草「おざわ」の極太そばが忘れられません。そばをもぐもぐ食べるという斬新な感覚……! そばの世界は奥が深いです。

 

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