LGBT当事者だけでなく、孤独に悩むあらゆる人に贈りたい『LGBTと家族のコトバ』

社会

公開日:2018/12/29

『LGBTと家族のコトバ』(LGBTER 著/双葉社)

 日本では今、LGBT当事者は13人に1人いると言われています。これは、左利きの人やAB型の人の割合とほぼ同じ。学校のクラスや職場にも、きっと数人はいるはずなのです。

『LGBTと家族のコトバ』(LGBTER 著/双葉社)に示された数字を、意外に思う人もいるかもしれない。学校の1クラスが40人だとして、単純に割り算すれば、クラスメイトの3人くらいはLGBT(性的マイノリティ)の当事者であるかもしれないということだ。

 もちろん、クラスに当事者がひとりもいない場合もあるだろう。だが、わたしたちが当事者に出会っていることを実感しにくいとすれば、彼らが自分のことを言い出さないからではないだろうか?

 彼らは(あるいは自分は)、ひとりで悩んでいたのではないか。大切な人が苦しんでいるとき、どんなふうに声をかけたらいいのだろう──本書は、現代社会に生きる性的マイノリティとその家族の生き方を、彼らにインタビューして得た「リアルな“コトバ”」で綴ったものである。

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 本書で紹介されているのは、「男女の夫婦と血のつながった子ども」というイメージに当てはまらない、9つの家族だ。元女性の夫とその妻、レズビアンのカップル、性自認は男性だが子どもを2人産んだ母、ゲイ3人での暮らしなど、彼らの考える家族のかたちは実にさまざま。

 中でも本書を特徴づけるのは、娘が息子になった家族へのインタビューだろう。

 一家の構成は、父、母、兄と妹。仲のいい家族のもとで育った妹・麻未さんは、18歳になったある日、勇気を振り絞って告白する。「自分は男だと思う」。麻未さんは、性同一性障害を抱えて生きていたのだ。

 そうは言っても、家族にとって麻未さんは、それまで可愛い娘であり、妹だった。にわかにはカミングアウトを受け入れがたかったという葛藤が、父、母、兄の口からそれぞれ語られる。麻未さん自身も苦悩した。名前を変えて、男として生きたい。けれど、家族にさえわかってもらえない。そんな悲しみの中で、麻未さんはあることに気づく。

 ある日、家族共用のパソコンでインターネットの検索履歴を見たら、こんなキーワードが残っていた。「性同一性障害、生き方、幸せ」。そして、名前の画数を調べた履歴も。(中略)
 画数を調べながら、名前を考えてくれたのは母だった。
 新たな名前は、麻斗。父からもらった、麻未という名前の「麻」。そして、母からもらった「斗」。ふたりからもらった、大切な名前。

 マイノリティであることに悩み、苦しむのは、当事者だけとは限らない。彼らを愛する人だって、同じように戸惑い、葛藤している。そして、考えに考え抜いたその先で、彼らは本質にたどり着くのだ。「自分はいったい何者なのか?」「自分たちにとって家族とは何か?」──それを決めるのは、社会でも常識でもない。自分たち自身でいいのだと。

 彼らのリアルで力強い肉声は、性的なマイノリティは言うまでもなく、あらゆる少数派に明日への光を見せるだろう。LGBTの当事者や、その支援者だけでなく、孤独に苦しみ、生き方に悩むすべての人に読んでほしい一冊だ。

文=三田ゆき