大工経験ゼロの男が、3LDKをどうやってDIYしたのか? セルフビルド住宅ドキュメント!

暮らし

2018/12/31

『家をセルフでビルドしたい 大工経験ゼロの俺が3LDK夢のマイホームを6年かけて建てた話』(阪口 克/文藝春秋)

 小説でも映画でも、優れたエンタテインメント・ストーリーの多くは「主人公が困る」話だ。

 エンタテインメントとしての物語は、基本的にトラブルやハプニングがなければ話が進まないし、おもしろくもならない。主人公が困り事=障害をどう切り抜けるかに観客は「ハラハラドキドキ」し、見事、解決したエンディングに拍手を送るのだ。仮にトラブルもハプニングもなく、主人公が何の苦労もせずに目的を達成したり成功したりする物語があったとしても、それがエンタテインメントであるならば、これほどつまらないものはないはずだ。

 というわけで、『家をセルフでビルドしたい 大工経験ゼロの俺が3LDK夢のマイホームを6年かけて建てた話』(阪口 克/文藝春秋)である。

 内容は家をすべて自分の手で、日曜大工で建ててみようと考えた著者が、ほぼ素人の状態から実際に家をセルフビルドするまでの記録。つまりはノンフィクション、それもちょっと専門的な匂いも漂う建築・住宅ジャンルである。

 これだけ聞けば小難しいノンフィクションのように思えるが、いざ読み始めるとページをめくる手が進む進む。ノンフィクションではあるが、家をつくるという物語を読んでいるような感覚もあり、優れたエンタテインメント小説のように次の展開が気になってページをめくってしまうのである。

 理由は簡単だ。当然といえば当然なのだが、素人が家を自分の手でゼロからつくるという行為、そんな簡単にいくわけがない。というか基本的には無茶で無謀な話である。つまり、作者の家づくりは障害の連続…というか障害しかないといっても過言ではない。たとえば掃き出し窓を取り付けよう、となった段の作者と妻のやりとりはこんな感じである。

「ようするに、床の高さと合わせなきゃいけないのね」
「じゃあ、そうしてよ」
「そうなんだけどね……」
「何が問題なの?」
「決まってないのよ」
「何が?」
「床の高さ」
「……」
 そう我が家ではこの時点で、床がどの高さになるのか決まっていなかったのだ。まいったか。俺はまいった……。
(*本文より)

 と、万事がこの調子なのである。

 ただ、それでも家づくりが頓挫しないのは、作者の基本姿勢がポジティブであり、次々と襲ってくるトラブルやハプニングを、都度、笑いと涙と根性で打ち返していくから。そして徐々に作者の建築に対する知識と経験が増していくから。本業はカメラマンではあるのだが。

 そんな山あり谷ありのセルフビルドだが、結果的に、作者はその家に住めることとなった。だが、そこに至るまで膨大な時間を費やすこととなり、スタートから引っ越しまでかかった時間はなんと6年! もはやちょっとした大河ドラマのようである(というか引っ越せるようになっただけで、本書執筆の時点では、工事は継続している模様)。

 ちなみに作者がほぼ素人であったが故に、本書は家ができるまでの流れをやさしく知ることができ、また建築の「そもそも」の知識も多少、身につく。ただ、本当に参考になるかといえば、セルフビルドをしようとする人以外は、そんなに参考にならない気もする。だからやっぱり、普通の人は喜劇小説のように楽しむのが一番の作品ではないだろうか。

文=田澤