ブス扱いする母親、突然怒鳴ってくる父親――いちばん恐ろしい場所は「我が家」だった『謎の毒親』

文芸・カルチャー

公開日:2019/1/2

『謎の毒親』(姫野カオルコ/新潮社)

 親というのは、良い親であろうが、悪い親であろうが、生きていようが死んでいようが、子供にとって乗り越えなければならない永遠の課題だ。どんなに自由に生きようとしても、人は親の存在に振り回され続けなければならない。近年では、「毒親」という言葉をよく聞くようになった。親と接する中で当たり前として培われてきた常識に対して、大人になってから感じる違和感。虐待はされていなくとも、周囲から良い親だと思われていたとしても、子供を蝕んでいく毒になる親は、世の中に溢れかえっている。

 姫野カオルコ氏著『謎の毒親』(新潮社)は、親という課題を抱えるすべての人に読んでほしい相談小説。この本に書かれているものは、著者自身の実体験に基づいているというのだから驚きだ。著者自身とまったく同じ体験をした子供時代を過ごした人はまずいないに違いない。だが、著者のように、よくわからない親の言動に振り回されながら生きてきた人はきっと少なくはない。

 舞台は、関西のとある街。母の一周忌があった週末、光世は数十年ぶりに、大学時代に通っていた文容堂書店を訪れた。帰宅後、光世は店にいつも貼られていた「城北新報」の「打ち明けてみませんか」という相談ページ宛に手紙を送ることにする。内容は、自分が過去に経験した「家庭の謎」について。きっと返事は来ないと思っていたが、忘れた頃に回答がかえってきた。

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 光世は別に虐待されているわけでもないし、経済的な苦労をしながら育ったわけではない。だが、命の危険はなかったが、光世にとって「我が家」は、いちばん恐ろしい場所だった。部屋の片付けができない両親は虫が湧いても無頓着。布団を開けるとゲジゲジがいるというのは日常茶飯事だし、家には常軌を逸した数のゴキブリが湧いていた。母親は光世をブス扱いするし、なぜか見つけたナメクジを豆腐パックに入れて、塩をかけては、縮んだそれらを貯めておく謎の日課がある。父親も身に覚えのないことで突然怒鳴り散らしてきては彼女を苦しめる。そんな両親が娘に求めていたのは、「男のようであること」「一生結婚しないこと」だった。

「とんでもない」と思わず眉間にシワを寄せてしまうようなエピソードばかりで、読めば読むほど、苦しい。だが、光世の苦しさは決して他人事ではない。もしかしたら、あなたにも身に覚えがあるのではないか。

「毒親」という「ひとこと」にはずっと抵抗がありましたし、今でもあるのですが、けれど、このひとことを得たことで何らかの効力があるのなら、さびしい子供たちの、悪いのは自分だとひたすら自責し涙を禁じた心の鍵穴にやっと入れる鍵になって欲しい。この手紙で、私はこの「ひとこと」を父と母に対して使います。さびしい毒親と。(p.412)

 各々の家庭の事情は、外からは見えてこない。拭いきれない違和感を覚えても、子供はどうすることもできない。その様子を真摯に描き出したこの小説は、親に悩まされてきたあなたの心にも響くに違いない。そう、この本はあなたの物語。親に振り回されてきたあなた自身が、きっとこの本の中にいる。

文=アサトーミナミ