インスタやTwitterで話題! たった54字の物語に隠されたゾクッとする驚きのトリックとは?

文芸・カルチャー

2019/1/1

『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』(氏田雄介/PHP研究所)

「インスタ映え」という言葉があるように、Instagramを通じて発信するほとんどは、誰かに見られることを意識した「おしゃれな写真」だ。私自身もアカウントを持っており、日常の中の少し特別な瞬間を切り取った投稿写真を発信している。

 しかし、少し前からInstagramやTwitterではこんな不思議なハッシュタグが話題になっている。

 それが「#54字の物語」だ。添えられた画像は、おしゃれな風景でも、美味しそうな食べ物でもなく、54文字分のマス目が並ぶ正方形の原稿用紙。

『意味がわかるとゾクゾクする超短編小説 54字の物語』(氏田雄介/PHP研究所)では、企画作家でもある著者・氏田雄介さんが見慣れない正方形の原稿用紙を使って、少し不思議でユーモアに溢れた世界で一番短い(とされる)短編小説を綴っている。

■54文字の後半で明かされる予想外の物語

海外旅行の大事な場面で、パパがくれた辞書に何度も助けられたよ。でもトイレに紙がない国にはもう行きたくないな。

 この54文字の物語では、海外旅行に行く子供に持たせた辞書が、一体どのように使われたのかが描かれている。父親から貰った辞書が、辞書としてではなく「トイレットペーパー」という予想外の使われ方をしたことが、後半で判明する仕掛けだ。

 本書にはそれぞれの物語に解説が添えられ、その仕掛けを明かす。たとえばこの物語では、「物は使いよう」という言葉を紹介。ひらめき次第で、あらゆる物は想定された用途と異なる使い方ができることに改めて気づかされる。

■集団になると人は思いもよらない行動をとる

明るい光を放つ家をみんなが夢中で撮影している。そんなに写真映えするのだろうか。しばらくして消防車が到着した。

 私たちの生活に、スマホやSNSはすっかり欠かせないものとなった。しかしこの物語では、その何気ない行為が時にその場に相応しくない行動となることを教える。

「自分は違う」と考えていても、集団になると人は思いもよらない行動をとってしまうものだ。そう気づいて、恥じ入ったりぞっとしたりしてしまうのは、果たして私だけだろうか。

■夫婦の本質を磁石で表現する

SくんとNさんは磁石のS極とN極のようにお互いに強く惹かれ合い結婚した。Nさんの名字は夫と同じSに変わった。

 いつか愛する人と結婚し、家庭を持ち、幸せな人生を歩む。多くの人がそんなことを夢見る。しかし、現実はそう簡単にはいかない。夫婦というのは実に難しい。

 この物語では強烈に惹かれ合った恋人たちが結婚し、やがてどうなってしまうのか、磁石を使って上手く表現している。願わくば、どこかで折り合いをつけ、SくんとNさんには結婚生活を続けてほしい…。

■54文字という制限を曖昧な日本語で楽しむ

 本書に収録された物語に課せられた「54文字」という制限。これをクリアするためには、あえて主語を省略したり、曖昧な言葉で読み手に想像するための余白を与えることが必要不可欠だ。計算して言葉を選ばなければ、54文字の物語は成立しない。

 日本には、短歌や俳句といった「言葉遊び」を活用した表現文化が古くから存在し、限られた文字数の中で読み手の想像力を掻き立てるさまざまな技法が伝えられてきた。

「#54字の物語」というハッシュタグが話題になったのも、おそらく日本人に馴染みのある「曖昧な言葉遊び」に通じるものがあったからではないか。この超短編小説は、いわば現代版の短歌、あるいは俳句なのだ。

 本書の漢字には全てふりがながふられている。小学校高学年ならば、きっとスラスラ読めるだろうし、そうでなくても親子で一緒に読めば日本語の楽しさに触れられるだろう。

 本書の巻末にはまっさらな54文字の原稿用紙が用意されている。SNSを通じ誰もが手軽にそれぞれの思いを発信できる現代。この不思議な原稿用紙を使って、あなたも物語を綴ってみてはいかがだろう。

文=和泉洋子