千原ジュニア主演映画『ごっこ』―― 不器用な男は、なぜ少女を助けようとした?

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公開日:2018/12/29

『ごっこ』(小路啓之/集英社)

 46歳という若さでこの世を去った漫画家・小路啓之氏の原作『ごっこ』(集英社)が実写映画化され、10月20日(土)のロードショーを皮切りに、全国順次公開となった本作。

 公開直後の「ぴあ映画初日満足度ランキング」、「Yahoo! 映画『ユーザー評価ランキング』」では1位を獲得し、今年上映された映画の中でも秀作のひとつと呼び声が高い。

 主役を演じたのは、千原ジュニア。40歳目前にして引きこもりのニート・城宮を好演し、相手役を、映画『ユリゴコロ』やNHKドラマ「悦ちゃん」で注目を集め、今や“天才子役”と名高い平尾菜々花が務める。映画の中で2人が見せる力演の化学反応は、観るものを惹きつけ、どんどん物語の中へと誘っていく。

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 千原ジュニア演じる城宮は、ある日、向かいに住む傷だらけの少女・ヨヨ子(平尾菜々花)を偶然目撃し、衝動的に誘拐してしまう。この日を境に、城宮とヨヨ子は、仮想の親子として、ひとつ屋根の下で暮らし始める。最初はぎこちなかった城宮とヨヨ子だが、徐々に2人の距離は縮まっていき、城宮もヨヨ子を育てることで父性が芽生えていく。

 しかし、ヨヨ子にはある秘密があり、その真実を知った城宮は、自らの手で自身の人生に影を落とす。そして、2人の生活は一気に崩壊へと向かっていくが…。

「自分のために生きなあかん!」

 たとえ血の繋がりはなくとも、父としてヨヨ子を叱るシーンは、演技だということを忘れてしまうほど心を揺さぶられてしまう。

 生前、原作者の小路啓之氏は、千原ジュニアのファンだったというが、熊澤尚人監督が、「千原ジュニアと平尾菜々花がいなければ、この映画は実現しなかった」と言うほど、それぞれの役に憑依している。

 原作『ごっこ』(集英社)の「パパやん」も、さぞジュニアを彷彿させるキャラクターに違いない。そう思って原作を手に取ったものの、そこに登場する主人公「モジャ」は、威圧感を漂わせる眼光の鋭い「パパやん」ではない。はっきりいって、傷だらけのヨヨ子を見て、邪な気持ちを抱く“ロリコン男”だ。ヨヨ子はそんな男を「パパやん」と呼び、そう呼ばれた日から、モジャは父としてヨヨ子に接するようになり、2人の奇妙な親子ごっこが始まる。

 一見すると、どこにでもいる仲睦まじい父と娘にしか見えない2人――。

 だが、モジャとヨヨ子の関係に疑問を抱く人物が現れる。モジャの幼馴染で婦人警官の「戸神マチ」だ。

 幼い頃からモジャを知るマチは、内気で引きこもりがちだった男が、突然子連れで地元に帰ってきたことに不信感を抱く。そして、事あるごとにモジャに付きまとい、口を開けば悪態をつく。しかし、そんな態度とは裏腹に、実は、モジャに対して淡い恋愛感情を抱いている。

 映画同様、原作も扱っているテーマは極めて重い。貧困や年金詐欺、死体遺棄や殺人といった社会の闇がストーリーに紐づいている。しかし、原作と映画が異なる点は、登場する人物のキャラクターと物語のタッチだろう。

 先ほども紹介したが、原作と映画では、「パパやん」のキャラクターは大きく異なる。また、「パパやん」に限らず、原作に登場する人物は、みな何かしらの歪みがあり、狂気を秘めている。

 例えば、原作には、ヨヨ子が通う幼稚園の園長・寺西という男が登場するが、外見はいかにも人のよさそうな紳士面をして、実は再婚相手の連れ子・アミに邪な心を抱いている。しかし、驚くのは、アミも屈折した性格をしており、原作を読み進めていけばいくほど、一筋縄ではいかないストーリー展開だと気づく。

 リアルな社会問題をテーマに描く超現実主義の世界に、コミカルなキャラクターを登場させた原作『ごっこ』。小路氏が“早世の鬼才”といわれる所以は、作者しか描けない唯一無二の世界を築いたからかもしれない。

 ぜひ、この機会に原作と映画を見比べてみてほしい。

文=金本真季