騙した相手に惚れてしまった女結婚詐欺師! 新聞には載らない事件の「その後」を傍聴ルポで追う

社会

2019/1/8

『きょうも傍聴席にいます』(朝日新聞社会部/幻冬舎)

 北尾トロの『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』(文春文庫)や、裁判傍聴芸人として有名な阿曽山大噴火(あそさんだいふんか)の『裁判大噴火』(河出書房新社)などの刊行以来、人気の定番ジャンルとなった裁判傍聴ルポ物。ここで紹介する『きょうも傍聴席にいます』(朝日新聞社会部/幻冬舎)も、同テーマの1冊だ。ただ、書き手は新聞社の社会部記者たちであるため、前掲の2冊よりシリアス度は圧倒的に高い。

 本書は朝日新聞デジタルの人気連載コーナーをまとめたもので、前作『母さんごめん、もう無理だ きょうも傍聴席にいます』(幻冬舎)の続編だ。事件が起こると新聞には詳細な記事が載るが、よほどの大事件でない限り、長く続く裁判を丹念に追って報道したりはしない。判決が出たあとの裁判記事は、掲載されてもわずかな文字数で、結果を淡々と報じるだけだ。

 だが、裁判における被告と裁判官、検察官、弁護士などとのやりとりのなかで、事件の本当の姿が明らかになることも少なくない。通常の新聞記事には載りきらないその部分をカバーするのが、朝日新聞デジタルの連載であり、本書ということになる。

■愛に気づいた女結婚詐欺師は、裁判で何を語ったのか?

 本書に収録されている事件は全28件。そのなかには、大手通信教育会社で大量の顧客情報が流出した事件や、妻と不倫関係にあった弁護士の局部を枝きりバサミで斬り落とした事件、女性器を象(かたど)った芸術作品をめぐるワイセツ裁判など、世間を騒がせ、記憶に残っている事件も多い。同時に、60歳過ぎの人物が交際相手の浮気を疑って絞殺した事件や、メガバンクの副支店長が不倫相手に貢ぐため勤務先から11億円を着服した事件、飲酒運転で人をはねて殺してしまった事件など、ほぼ無名の事件も数多く収められている。そして、事件の有名無名にかかわらず、裁判で明らかにされる人間ドラマは、どれも生々しく、人間のあけすけな愚かさ、悲惨さ、滑稽さ、残酷さにあふれている。

 本書に収録されているそんな人間ドラマの中では、「愛に気づいた結婚詐欺師の女」がとくに印象深い。これは、結婚相談所の会員となった60代の男性が一回り以上年下の女性に好意を抱き、交際を始めるが、じつはその女性は結婚詐欺師。男性は言われるがままに、3000万円近くを騙し取られてしまうものの、そうこうしているうちに詐欺師の女性も男性に好意を抱くようになってしまい…、というものだ。

■傍聴ルポは、果たして“のぞき見”趣味の延長なのか――

 裁判傍聴ルポ物の人気が高い背景には、こういった赤裸々な人間ドラマを“安全な場所からのぞき見する”という、どこかほの暗い快楽がひそんでいることは否定できないだろう。

 ただ、こういった本を読めば読むほど、どんな人間でも、いつ法廷に立つことになるかわからない、という気にもさせられる。そして、それが被害者の立場としてなのか加害者の立場なのかは、ちょっとしたタイミングや運の問題のようにも思える。本当に安全な場所など、どこにもないのだろう。

文=奈落一騎/バーネット