「メルカリ」が天下を取れたワケ。実は挫折尽くしだった“お粗末”なアプリが大躍進した秘訣は?

ビジネス

公開日:2019/1/11

『メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間』(奥平和行/日経BP社)

「飽きたらメルカリで売ればいいや」――。最近、本や服を買うときに、“売るときのこと”を考えるようになった。例えば、最新の文芸書やビジネス書が読みたくなったとき、昔は1500円以上する値段を見ると買うのをためらっていた。だが、売れ筋の新刊ならば、読んだ後にメルカリに出品すれば1000~1200円ですぐに売れる。そう考えると、もし“外した”としても、損をするのは500円くらいで済む…という計算だ。

 メルカリをはじめとしたフリマアプリの登場は、私たちのライフスタイルを確実に変えた。その実感があるのは、筆者だけではないはずだ。

 今はすっかり日常の一部となったメルカリは、“まだ”設立して5年の会社である。2013年の7月にサービスを開始し、先行する競合アプリを押しのけ、約3000億円の市場を築き上げてきた。ベンチャー不毛の地ともよばれてきた日本で、ユニコーン(企業評価額が10億ドル以上)となったのがメルカリだ。だが、傍から見れば順風満帆に見えるメルカリにも、今の成功に至るまでには数々の“難所”があったという。

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 本書『メルカリ 希代のスタートアップ、野心と焦りと挑戦の5年間』(奥平和行/日経BP社)は、そんなメルカリの内幕を描くノンフィクション作品。著者は、長年IT企業やスタートアップを取材してきた日本経済新聞の編集委員・奥平和行氏だ。創業者・山田進太郎をはじめとした関係者への綿密な取材をもとに、著者はメルカリが駆け抜けた5年間を活写する。

■スタート直後のアプリが“お粗末”だった理由は?

 今のネット業界のルールは、“勝者総取り”と言われている。LINEなどのように、ひとつのサービスが市場を席捲しやすい。そのため、メルカリもいち早くサービスを開始し、市場を開拓する必要があった。だが、アプリのリリース予定日が近づいてきても、構想していた機能が実装できる見込みは立たなかった。使いやすさにこだわってリリースを延期するか。思い切って機能を絞り込むか――。山田進太郎が選んだ選択は、“妥協”だった。

 今では考えられないことだが、リリース当初のメルカリは、商品の検索機能がなかった。そのため、ユーザーは商品列をひたすらスクロールする必要があった。さらに、ユーザーが売上金を銀行口座に振り込むための機能も実装できなかった。規約上、販売から2週間後に出金が可能となると決めていたので、その期間までにアプリのバージョンアップで対応したというのである。まさに綱渡りのスタートだった。

■メルカリがこだわる海外進出が、今後の吉凶を左右する?

 サービスが軌道に乗り始めてからも、CMのための資金調達、アメリカ進出、現金が出品されたことによる炎上問題、株式上場など、数々の試練が山田たちを待ち受けている。そのたびに、彼らは知恵や人脈を使い、大胆な打ち手を繰り出してきた。――そして今も、大きな壁にぶつかっている。メルカリは、国内では誰もが知るサービスとなり、順調に売り上げを伸ばし続けている。だが、海外では未だに大苦戦している。2018年6月期の連結決算は、日本事業が好調なのにもかかわらず、70億円の赤字だ。成長中のベンチャーが赤字であることは珍しくないが、鳴り物入りで上場した今、株主の期待にも応えなくてはならない。

 こうしたメルカリの状況を見ていると、「現在の日本事業だけでも十分なのでは?」と思えてくる。だが、山田たちには海外にこだわる理由があるのだ。本書を読めば、その覚悟のほども窺い知ることができる。私たちがなにげなく使っているサービスの裏には、夢に燃える起業家たちのアツいドラマがある。そして、それは今あなたがスマホを触っているこの瞬間も続いているのだ。

文=中川 凌