普通の人に“擬態”しても、生きづらい――自分を真に幸せにするのは一体誰なの? 共感の声続出、話題のマンガ『ダルちゃん』

マンガ

公開日:2019/1/20

『ダルちゃん』(はるな檸檬/小学館)

 生きることがしんどい。周りと歩調を合わせられない。わたしの居場所はどこにあるの……。

 そんなふうに悩んだことはないだろうか?

 社会性が求められる場所では、誰だってそれなりに「役者」でいることが求められる。

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 だが、そんなことを長い間続けていると、自分の本当の気持ちですらわからなくなってしまう。

 他人の目を介さない「自分だけの幸せ」は、油断しているとすぐに見えなくなってしまうのだ。

 はるな檸檬のマンガ『ダルちゃん』(小学館)は、誰かの目を常に気にして、世間のルールを必死で覚えて、自分の居場所を確保しようとする女の子「ダルちゃん」の成長が描かれている物語だ。

 彼女の名前は、丸山成美。24歳の派遣社員だ。

 彼女の本当の姿は、ダルダル星人のダル山ダル美、通称「ダルちゃん」で、ゆるい状態が自然なのだが、普通の人間に見えるように幼い頃から努力を続けている。

 朝はキチンとシャワーを浴びて髪を洗い、メイクもする。苦手なストッキングをはき、ハイヒールに両足を突っ込んで、ケータイデンワで音楽を聴きながら出勤。コピーやお茶汲みだけでなく、時にはウワサ話にも付き合う完璧な「擬態」のおかげで、会社の皆は誰もダルちゃんが「ダルダル星人」であることには気付かなかった。

 ダルちゃんは、役割やルールがハッキリしている会社は好きだが、飲み会は苦手だった。ある日、ダルちゃんは、会社の飲み会で、営業の男性・スギタさんに絡まれ、侮辱の言葉を山のように言われてしまう。だが、「正解」がわからない彼女は、笑ってそれを聞いていた。

 その様子を見ていた経理の女性・サトウさんは、ダルちゃんを外へと連れ出し「あんな風に自分を扱ってほしくない」と真剣に訴える。

 しかし、自分が誰かに嫌われることばかり気にかけて、誰かを嫌いになったことのないダルちゃんがはじめて嫌いになったのは、スギタさんではなく、サトウさんの方だったのだ……!

 だが、その後ダルちゃんは、サトウさんに「詩集」を借りたことがきっかけで、生き方が変わっていく。ダルちゃんは表現することに興味を抱き、これまで封印してきた「自分のほんとうの気持ち」と向き合い、詩に綴り、周囲からも認められるようになる。また、会社内で新しい出会いがあり、恋人もできて、幸せを享受するのだ。

 ……ここで終わっていればハッピーエンドなのだが、物語は後半、恋人と創作をめぐり、怒涛の展開を見せる。

 ダルちゃんが追い求めていた「普通」の正体や、詩を書くことの意味、真の幸せについて、彼女は存分に痛みを味わいながら、彼女なりの答えを出していくのである――。

 寂しさや生きづらさを抱えたまま「擬態」して生きるのは、本当にしんどい。

 だが、その痛みを胸に抱えたまま、視野を少し広げて、自分なりの幸せを模索して歩んでいく作業は決して無駄ではないと、読了後、心から思った。

 人生は良いことばかりではないが、他者と交わり、歩みを止めないことで、導き出される希望がある。わたしもあなたも絶対に大丈夫だと、強く温かく励ましてくれるマンガである。

文=さゆ