40代子持ち。夫は私を裏切り失踪――絶望を埋めるためのセックスは罪ですか?

マンガ

公開日:2019/1/26

『恋する母たち』(柴門ふみ/小学館)

 夫や世間が求める母や妻、大人の女性としての“あるべき姿”を演じるばかりに、自分の欲望や感情に鈍感になっていないだろうか? 夫からは愛情不足で、恋も許されず、子育てや仕事がうまくいかないとき…女性たちのやるせない気持ちはどこに解放すればよいのか。

 一世を風靡したトレンディドラマ「東京ラブストーリー」や「あすなろ白書」の原作で知られる漫画家・柴門ふみ先生の最新作『恋する母たち』(小学館)の主人公は、3人の40代女性。浮気相手と失踪した夫を10年待つ石渡杏、社内不倫に入れ込む夫に悩むセレブ妻・蒲原まり、作家志望の専業主夫と暮らすキャリアウーマン・林優子。それぞれに異なる生活と背景を持つ3人の、家族との大切な暮らしの中で感じる「虚しさ」とその隙間を埋める新しい「恋」を描く話題作だ。

心が寂しいとき、「恋」に落ちない自信はありますか?

 杏は、心から夫と息子を愛す、“よき母”で“よき妻”だった。優しい夫とかわいい息子との愛に溢れた暮らしが続くことを信じてやまなかったが、ある日、夫の会社からの訪問で、夫が会社の金を横領していたことを知る。その夜から、夫は家に帰ってこなくなった。

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 事件の後、何日も帰らない夫を信じて待つ杏の前に現れたひとりの男が、追い打ちをかけるように名乗る。「あなたのダンナが駆け落ちした女の亭主です」。杏は怒りのあまり、男と愛のないセックスをしてしまうが――これは“不倫”なのだろうか?

 結婚をすると、かつて恋人だった夫は生活の一部になる。子育てに追われるうちに、女性として愛される喜びを感じる機会は減り、「妻の顔」「母の顔」でいることが自然になっていく。夫の浮気で信じていた未来が崩れ、心が折れそうになったとき、もし夫以外の男に求められたら、それが“いけないこと”と頭ではわかっていても、飛び込んでしまうのではないだろうか。

 杏は男とのセックスの後、「私、怒りでセックスできるんだ」と隠れていた「女としての自分」を自覚し、驚いている。それほどに長い間、「女としての自分」を無意識に封印してきていたのではないか。夫と息子に捧げてきた人生を裏切られた怒りが、決して奔放な性格ではない杏を、見知らぬ男とのセックスに向かわせた。

 もともと真面目な性格で、浮気をされても夫を好きな気持ちが消えなかった杏は、思い直して男との関係を断ち切るが、10年後、息子が名門中学に入学したころ、突然男から連絡が来る。「ご主人の居所が分かりました。詳しくはお目にかかって」。10年経った今、杏はどんな気持ちで、男と会うのか――。そして、同じ名門中学に息子を通わせる蒲原まり、林優子との関係と、それぞれの「恋」の展開からも目が離せない。

 彼女たちの行動や決断は、母や妻としては決して正しいとは言えない。不倫を完全に肯定するわけではなく、杏ほどに最悪な経験をする女性は少ないとは思うが、女性としては、心の「怒り」や「虚しさ」には共感してしまうところがたくさんある。

 世間では日々、芸能人の不倫がスクープされ、非難されているが、不倫をする本当の理由や、当事者の心情は誰にもわからない。『恋する母たち』に登場する既婚・子持ちの40代女性の「恋」がはたして罪なのか。ぜひ自分の目で判断を。

文=三浦小枝