SHOWROOM前田裕二『メモの魔力』に学ぶ、最強のフレームワークとは?

ビジネス

公開日:2019/1/25

『メモの魔力』(前田裕二/幻冬舎)

 いま最も注目されている起業家・前田裕二さん。アーティストやアイドルなどを視聴・応援できる配信サービス「SHOWROOM」の代表取締役であり、著書『人生の勝算』(幻冬舎)で大きな話題を呼んだ。最近はワイドショーも騒がせている。

 起業家として大きな成功を果たした前田さんは、毎日おびただしい量の「メモ」を取るという。メモを取ることで自分を知り、思考を深め、日常からアイデアを生み出し、夢を叶えられる。メモは生き方そのものだそうだ。

『メモの魔力』(前田裕二/幻冬舎)は、前田さんが成功を収める原点となった「メモを取ってアイデアを養い、それを実現する方法」を紹介する1冊。本書をひとくちに表現したが、その中身はそれだけでは伝えきれない膨大な情報量と生き方を変えるメソッドが潜んでいた。その一部を少しだけご紹介したい。

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■「ファクト→抽象化→転用」という最強のフレームワーク

「メモ」といえば「記録媒体」のイメージがわく。誰かが話したこと、目の前の情報、ふと思い出したやるべきこと、これらを紙やスマホに記録する役割を担う。しかし前田さんはメモをさらに前向きに活用する。「知的生産」だ。

 目の前の物事をただ記録するのでなく、その事実から本質を抜き取りアイデアに昇華させ、自身のビジネスや物事の発展・問題解決に応用できないかと思案するのだ。前田さんは自身のメモ術のエッセンスは以下の3つだと語る。

(1)インプットした「ファクト」をもとに、
(2)気づきを応用可能な粒度に「抽象化」し、
(3)自らのアクションに「転用」する

 本書よりもう少し詳しく説明したい。ある打ち合わせで「東京・大阪のそれぞれの街中で宣伝用のチラシを配布した」というプロモーションの事例を聞いた前田さん。この事例を要約すると、「大阪のおばちゃんはよくアメちゃんを持っているというので、チラシと一緒にアメを配る作戦を実行すると、ものすごい勢いでチラシがはけた」とのこと。

 メモに記したこの「ファクト」から、前田さんは「抽象化」を始める。メモすることで得た具体的な情報を受けて、「気づき」や「ほかに応用可能な法則」を発見できないか探すのだ。結果、「大阪人は東京人よりも直接的で目に見えるメリットの訴求に弱いのではないか?」という気づきを得たという。

 そして最後の段階、「転用」だ。さきほどの気づきより、自身の運営する「SHOWROOM」においても「大阪人の気質が反映されているのでは?」と考え調査を行った。すると大阪のユーザーの課金単価が、東京に比べると低い傾向にあった。「SHOWROOM」を展開する上で、直接的で目に見えるメリットの訴求を達成すべきだということが判明したのだ。

 その後も思考探索を繰り返した結果、導き出した答えが「バーチャル劇場公演」。大阪人も納得するような面白いコンテンツを用意して、それに対して前払い式で対価を払う「現実世界のチケット課金制」に似たビジネススキームを用意するアイデアを生み出した。

 これが「メモの魔力」だ。

■「抽象化」を習得する3つの類型

 では、私たちが前田さんのように一味違うメモの取り方をマスターするにはどうすればいいだろう。本書には、「ファクト→抽象化→転用」をスムーズに行うノートの作り方、自分の頭の中にある考えを言語化する方法など、様々なテクニックが解説されている。しかしその中でも「抽象化」を習得できなければ、メモを魔力にすることができない。

 本書では「抽象化」を習得する3つの類型を解説している。それが「What型」「How型」「Why型」だ。抽象化するとき一番重要なのは「問い」にある。この3つの「問い」に注目してみたい。

【What型】

 空から水の粒が落ちることを「雨」と呼ぶように、「右と左」「男と女」という関係が対になっていることを「反対」と表現するように、目の前の現象や考え方を抽象化して別の名前につけ直す方法だ。これは物事や思考を言語化する訓練にもなる。

【How型】

 目の前の現象にはどのような特徴があるのか、深掘りして分析する方法だ。ポケモンを例にすると、まず「それぞれのモンスターに属性があり、属性に応じた攻撃を仕掛けることで効果が変わる」というファクトを抜き出す。そして「相手に応じて攻撃方法(つまり対応)を変える」という抽象化を行い、「就職面接の試験で試験官に応じて話すエピソードを変えると内定率が上がるのでは?」という転用を導き出せる。

【Why型】

 これは、なぜあの商品やサービスがヒットしたのか理由を分析・抽出し、自分のビジネスに転用する方法だ。この「Why型」こそ、抽象化を行う上で最も効果を得られる。たとえば2018年の大ヒット映画『カメラを止めるな!』は、無名の俳優が出演した低予算作品であるのに面白いことが話題になりヒットした。つまりこの「落差」こそが観た人の「共感」を呼ぶと分析できる。この分析をビジネスに転用する企画のタネに変えるのだ。

■メモがあなたの「人生のコンパス」を作る

 多くの人はここまでの内容を読んでも「難しいな~」と感じるかもしれない。抽象化は目の前の物事の本質を見極め言語化する作業だからだ。むしろ慣れないほうが当然なのかもしれない。

 抽象化を鍛えるにはどうすればいいのかというと、前田さんは言語化が必要だと断言する。そのために有効な作業の1つが「What型」だ。目の前の事象を見つめ、それに名前をつける、もしくはなぜ名前がついたのか考えてみる。

 では「What型」を鍛えるにはどうすればいいか。それはメモを取る習慣を身に着けることだ。本書を読むと痛いほど感じる。どんな成功者のどんな成功メソッドを手に入れようが、とにかく行動することから始まるのだと。前田さんは冒頭で語る。

講演会などの機会に皆さんとお話ししていても、「やりたいことがわかりません」という質問が一番多いのです

 やりたいことが見つからなければ、「メモの魔力」は発揮できない。活用する場所がなくメモを取らなくなるはずだ。前田さんはこのようにも述べている。

メモがあなたの「人生のコンパス」を作る

 メモを取ることは自分と向き合うこと。自分を知ればやりたいことが見つかり、おのずとメモを取るようになり、「メモの魔力」を発揮する機会が出てくる。本書の最後には、自分自身を知るための「1000の質問」が用意されている。ぜひ自分自身を分析し、やりたいことを見極めてほしい。するとメモを取る機会が増え、魔力を実感するときが訪れ、画期的なアイデアを生み出し、自分の人生の実現へとつながっていくはずだ。

文=いのうえゆきひろ