【「世界一受けたい授業」でも紹介された!】思いやりのある心はどう育てたらいいの?子どもに読ませたい絵本

出産・子育て

公開日:2019/1/27

『どんなかんじかなあ』(中山千夏:文、和田 誠:絵/自由国民社)

 子どもには、人の痛みや気持ちが考えられる、思いやりのある大人に育ってほしい。でも、それをどうやって教えたらいいのでしょうか。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)でも紹介された絵本『どんなかんじかなあ』(中山千夏:文、和田 誠:絵/自由国民社)に登場するひろくんは、まさに思いやりのある心の持ち主。ひろくんのことを子どもにも伝えたい、そんな風に感じる絵本です。

 ひろくんには、目の見えないお友だちのまりちゃんがいます。ある時、ひろくんは「みえないってどんなかんじだろう」と目をつぶりました。すると、普段は聴こえないような音がたくさん聴こえてきます。驚いたひろくんは「見えないって、すごいんだね」とまりちゃんに伝えました。まりちゃんは「ひろくんって、かわってる」と笑っています。

■ひろくんは、なぜ目をつぶったの?

 この場面を読みながら子どもと一緒に考えたいのは、ひろくんがどうして目をつぶったのか、ということです。子どもは「へんなの」と言うかもしれません。そんなことをしなくても、まりちゃんに話しかけられるのに。でも、もしかしたら、ひろくんはもうとっくに、話しかける言葉をいくつも考えていたかもしれません。目が見えないのはつらいんだろうな、とか、さびしいんだろうな、とか。けれど、もし違っていたらまりちゃんを傷つけるかもしれません。だから、ひろくんは目をつぶったのでしょうか。少しでもまりちゃんの気持ちを知るために。だとしたら、それは人の痛みや気持ちを考えられる、思いやりです。まりちゃんが笑ったのは、ひろくんの気持ちが伝わったからではないでしょうか。

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 目が見える、見えない。耳が聴こえる、聴こえない。人が持っているもの、持っていないものは、それぞれ異なります。だから、自分の考えが、他の人も同じだとは限りません。それを知らずに言葉をかけたら、相手を傷つけてしまうこともあるのです。人とコミュニケーションをとる時は、まず相手の立場を想像してみることが大切。そのことをひろくんは教えてくれます。

きみちゃん

 別のページでは、今度は、お友だちのきみちゃんがひろくんのことを「どんな感じかなあ」と考えてくれました。じつを言うと、ひろくん自身も、自分にはどうにもできないつらさを背負った子どもだったのです。だからといって、いつもふさぎこんでいるわけではありません。いろんなことを想像して、とても楽しそうに見えます。まだ見ぬ宇宙のことや、分子のことや、古代のことをよく考えていて、とてもくわしいのです。

 きみちゃんから「すごいんだね」と言われて、「そうかもね。ぼくって、すごいのかもしれないね」と、ひろくんは照れくさそうに笑いました。ひろくんは、つらいどころか、いろんなものを持っている子どもに見えます。たとえハンディキャップがあっても、視点を変えればこんなに豊かな世界が広がっているのです。

■小学校の課題図書にも選ばれた本

 本書は、2005年に刊行されてから、小学校の課題図書にも選ばれました。「子どもに読ませたい」「読み聞かせで使った」「大人になってからもう一度読みたい」などの反響を呼び、テレビでも紹介されるなど、広く読み継がれています。多様化が叫ばれる今、あらためて子どもたちに読ませたい本だとも言えます。

 中山千夏さんの文章は、いつも新鮮な驚きや感動を持って世の中を眺めるひろくんの考えを、子どもらしい素直な言葉で伝えていて、子どもたちはきっと、ひろくんに親近感を持って読み進めることができるでしょう。和田誠さんによる絵はとてもシンプルで、静けささえ感じさせます。それはまるで、私たちが知っている景色とはちょっと違う、ひろくんの心の中を表しているよう。その中に、聡明で思慮深いひろくんの人柄や、ひろくんの想像力が生んだ驚くような光景が、印象的に浮かび上がります。その静けさの中で、大人もまた、日常の中で忘れてしまっていることに気づかされ、ハッと我に返るような瞬間がありました。

 読みやすい内容で、小さな子どもでも自分なりに理解できそうですし、小学校、中学校…と年齢や経験を重ねてからも、また新たな受け止め方ができるのではないでしょうか。世の中にハンディキャップのある人がいるということや、人の気持ちを思いやる心を、押し付けではなく自然なかたちで分からせてくれる本書。子どもたちに、さまざまな気づきを与えてくれることでしょう。

文=吉田有希