なぜ社会には“無能”がはびこっているのか? 全ての人が無能になる「ピーターの法則」

ビジネス

2019/1/29

『ピーターの法則』(ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル:著、渡辺伸也:訳/ダイヤモンド社)

 若手の頃はバリバリ仕事をこなしていたあの人が、管理職になった途端、ぱっとしなくなった。管理職で輝かしい成績を残して人望も厚かったあの人が、経営に関わる役員に抜擢されると、急に本来の力を発揮できなくなった。

 誰もがこんな光景を目にしたことがあるはずだ。1つ前の役職では素晴らしい仕事ぶりを見せていたのに、昇進した途端にあの輝きを失う。いったいなぜか。実はこれ、社会で働くすべての人に当てはまる恐ろしい理由があった。

 身分や等級、階級によって構成員や従業員の配置が決まる「階層社会」を研究する「階層社会学」の視点で、世の中に“無能”があふれかえる理由を暴く『ピーターの法則』(ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル:著、渡辺伸也:訳/ダイヤモンド社)には、悲しい真実がつづられている。

階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに達する。

 その理由を本書よりご紹介したい。

■あらゆるポストは職責を果たせない無能な人間によって占められる

 その役職や業務を遂行できるほど能力がないのに、なぜかその地位に就く人がいる。彼らの無能ぶりにはカチンとくることもあるが、本書を読み解くと、社会に無能がはびこる避けられない現実を理解できる。

 社会で働く大多数の人は、企業や団体などの組織に入って仕事をこなす。その中には役職という階層があり、平社員から昇進していくことで中間管理職のポストをのぼり、多くの人が課長や部長という地位で仕事人生を終えていく。

 ここで問題となるのが「昇進」だ。その人がその役職で「有能」と認められると、さらに活躍が見込める場所へ役職が上がる。昇進が無限に続けばいいが、最後の昇進となったとき、つまり昇進ができなくなったとき、その役職での働きが「有能」から「無能」にレベルが落ちていることになる。「係長」では有能だったが、「課長」では十分に業務を遂行できず無能になり、昇進が止まってしまうのだ。この恐ろしい現象を解き明かしたのが「ピーターの法則」だ。

やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。

 私も、あなたも、やがてみんな昇進して(もしくは平社員のまま昇進できずに)無能になってしまうのだ。職場のムカつく上司が無能なのは、ピーターの法則の結果だ。

 では、なぜ世の中の企業が成り立っているのかというと、どの組織にも仕事を遂行できない役職の人がいて、その人を補うようにまだ無能レベルに達していない人(=昇進の余地がある有能レベルの人)が代わりに仕事をこなしているからだ。

■無能な上司が無能な部下を昇進させる

 階層社会学の視点で見ると、大きな組織の上層部ほど“立ち枯れた木々”のような無能の人々が積み上げられる。そんな衝撃的な事実を告げる本書は、このほかさまざまな真実を語る。ポイントだけまとめてご紹介したい。

見せかけだけの例外的な昇進が存在する

 なかには無能レベルに陥った人でも例外的に昇進することがある。人事の失敗をカモフラージュするため、部下の勤労意欲を保つため、他の組織へのノウハウや人材の流出を防ぐための「強制上座送り」だ。

 もしくは無能な社員が新しく長ったらしい肩書を与えられる「水平移動」。本書では例を挙げてこれらを解説しており、読んだ人は「あー、あの人のことだ」と社内の無能な人々の姿が目に浮かぶはずだ。

無能な上司が無能な部下を昇進させる

 社員が有能か無能かを決定するのは、その組織の内部にいる上司だ。もし有能な上司ならば部下の仕事の成果を評価し、昇進を決定する。しかし無能レベルに達した上司は、年長者に礼儀正しく接することや、社内文書を適切に処理することなどに注目してしまう。成果ではなく、組織の規則や様式を支える行動を評価し、昇進を決定する。あの大企業が倒産したのは、無能上司が無能部下を昇進させていたからかもしれない。本書では自身を昇進させてくれる上司を「パトロン」と称し、出世するコツも解説している。

自ら無能を演じる「創造的無能」

 昇進するだけの残された時間がなかった人材が“階層の頂上”に残る「頂上有能」という例外中の例外を除き、すべての人が昇進によって無能になる「ピーターの法則」。しかし本書の最後では、この法則にあらがう方法「創造的無能」を解説している。なんと自ら無能を“演じる”ことで、有能なまま役職に就き、上のポストを避ける技があるという。これによってどんな効果が得られるのか。その詳細はぜひ本書で目にしてほしい。

 組織で働く以上、有能な人材として活躍したい。せめて組織のお荷物になる無能だけにはなりたくない。そんな切実な思いが誰にでもある。「昇進を続ければ誰もが無能になる」という「ピーターの法則」は残酷な真実に違いない。職場の使えない同僚やムカつく上司に、いずれ自分がなるかと考えると、なんとかその未来を避ける方法を考えたくなる。「あれ? 私は今の役職で活躍できているかな?」。そんな疑問を抱いた方は、ぜひ無能化を回避するヒントを本書に求めてほしい。

文=いのうえゆきひろ