不快指数150%、世間を震撼させた凶悪殺人犯の頭の中は…? 直接インタビューで見えてくるもの

社会

公開日:2019/1/30

『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』(小野一光/幻冬舎)

 犯人は、なぜ被害者を殺したのか――。ミステリー小説において「ホワイダニット(Why done it?)」と呼ばれるこのテーマは、犯人の名前に次ぐ重大な謎の1つである。カネ、痴情のもつれ、嫉妬…小説の中には、そんな“もっともらしい”動機が並ぶ。だが、事件が解決したときに、「そんなことで人を殺すだろうか?」と思うことも少なくない。

それでは、“現実世界”の犯人たちは、どんな動機で人を殺しているのだろうか。そんな疑問をきっかけに、本書『人殺しの論理 凶悪殺人犯へのインタビュー』(小野一光/幻冬舎)を手に取ってみた。

■凶悪殺人犯との直接対話で見えてきたものとは?

 著者は、殺人事件や内戦、震災などの取材で多数の記事を執筆してきたフリーライターの小野一光氏。本書は、氏が直接面会室で相対してきた5人の凶悪殺人犯の様子を精細に記録する。大牟田四人殺害事件、北九州監禁連続殺人事件、近畿連続青酸死事件…。事件直後の報道が記憶に残っている事件もあるだろう。

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 通常、速報性に重きをおく新聞やテレビなどでは、犯人の人間性にまで深く踏み込むことはむずかしい。だが、裁判後にも面会室に何度も足を運び、犯人との信頼関係を構築してきた小野氏には、そこから零れ落ちたものが見えているようだ。

■見た目は普通のおばちゃん――だが、彼女の結婚・交際相手は11人死んでいた

 本稿では、近畿連続青酸死事件の容疑者・筧千佐子の章を紹介したい。この事件は、2013年12月、筧千佐子の夫である勇夫さん(当時75)が自宅で死亡したことから発覚。勇夫さんの体内から青酸化合物が検出されたため、事件の可能性が高まった。そこから彼女の過去を調べていくと、過去の結婚・交際相手のうちなんと11人もが死亡している…。典型的な“金目当て”の犯行のように思えるが、筧の心理はそう単純なものではなかったという。

 著者がはじめて筧千佐子の姿を目にしたのは、2017年6月に彼女の裁判を傍聴したときだ。そのときの印象は、“小柄などこにでもいるおばちゃん”。だが、面会室で彼女と会うたびに、その人となりが次第に見えてくる。筧は、自分が死刑になったことや、逮捕される前に犬の引き取り手を探したことなどをあけすけに話す。さらには、著者のもとには「人恋しいです。お会いしたいです」といった手紙を何度も送る…。

 そんな彼女は、ふとした瞬間に“殺人の告白”をした。著者が「千佐子さんって、北山さん(注:筧の最初の夫が亡くなった後、交際していたとみられる男性)は殺めてないの?」と聞いたとき、こう答えたのだ。

「あんなにおカネを出してくれる人、私が殺めるわけないやろ」

 この言葉を皮切りに、彼女は自らの「人殺しの論理」を語りはじめる。その詳述はぜひ本書で直接確かめてほしいのだが、それは、私たちの中にある種の納得と、そして恐怖の感情も同時に生み出すものだ。

 私たちは、凶悪殺人犯に共感や同情をすることはできない。それでも、彼らと対峙してきた小野氏の文章からは、その異常性とともに、私たちと変わらない彼らの「人間」としての部分も見えてくる。本書を読めば、ニュースで見る殺人犯たちを見る目が変わるかもしれない。

文=中川 凌