ヒロミの10年間の小休止――休み方にもセンスが必要。有意義な休みにするためには

生き方

更新日:2019/2/21

『小休止のすすめ』(ヒロミ・藤田 晋/SBクリエイティブ)

 1986年、21歳でB21スペシャルを結成して以来、約20年間、ほぼ下積みなく芸能界の第一線で活躍してきたタレントのヒロミさん。しかし40歳を迎えるとき、潮が引くように出演番組が終わっていった。求められるタレント像の変化を感じたヒロミさんはテレビ業界にしがみつくのではなく、ある選択をした。タレント・ヒロミの10年間の小休止だ。

 一方、日本を代表する経営者のひとりで、東証一部上場企業である株式会社サイバーエージェントの代表取締役・藤田晋さんは本書の冒頭でこう語る。

「経営は長期戦だから、走り続けるために遊ぶ。仕事から意図的に目を逸らすために小休止する」

 人生には休みが必要だ。

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「今の仕事に疲れている」
「少し違う方向に人生の舵を切りたい」
「取りたいと自分で思っていても、休みがうまく取れない」

 そんな人はぜひ『小休止のすすめ』(ヒロミ・藤田 晋/SBクリエイティブ)を読んでほしい。無理して走り出す前に、ちょっと立ち止まる“時間”が必要かもしれない。

■30歳になる頃には月商6000万円をたたき出した

 21歳でB21スペシャルとして活動をはじめ、27歳で個人事務所を作って独立。その後も活躍の場を広げ、いくつものレギュラー番組を持つようになった。30歳になる頃には月商6000万円をたたき出し、ヒロミさんはタレントとしてずっと絶好調だった。

 ところが誰もが知るように、30代の終わり頃から活躍に陰りが見え始める。絶好調だったバブルが弾け、日本の景気が急速にしぼみ始めた。イケイケだったテレビ局もやがてスポンサーの顔色をうかがうようになり、タレントの好感度を重視するようになった。時代が変わったのだ。

「もうちょっと丸くなれない?」とアドバイスを送るスタッフに応えることなく、ヒロミさんは潔い決断をした。テレビの世界から離れたのだ。仕事がなくなって急に時間ができた頃に出会ったのが、当時20代の藤田晋さんをはじめとする3人の若き経営者たち。

 彼らは激務から離れリフレッシュするひとときを求めて、ヒロミさんと遊んだ。小休止の中で、ヒロミさんは若き経営者からビジネスを学び、藤田さんは仕事から自分を解放して本気で遊ぶ時間の大切さを知った。この経験が互いの人生に大きな意味をもたらしたそうだ。

■小さなことにこだわっていた自分が見えてくる

 本書ではヒロミさんと藤田さんが交互に、ときには人生を小休止させるべき理由を語る。

 司会者として絶好調だった頃、ヒロミさんは「自分がおもしろければいい!」という“おいしい”立ち位置にこだわって仕事をした。クイズ番組の回答者や情報番組のコメンテーターなどの仕事は「タレント・ヒロミ」に合わないと決めつけて断った。成功体験へのこだわりやプライドが邪魔をして自分を変えられなかった。しかしその反動が、30代の終わりに待っていた。

 それから10年の小休止をはさんで、小さなことにこだわっていた自分が見えた。現在のヒロミさんは、今のバラエティ番組を「チーム戦」と理解し、自分だけではなく出演者みんながおもしろいと評価されるようなスタンスで番組に臨んでいる。少し休むと、変わるべき自分に気がつく。小さなプライドを捨てて新しい自分を受け入れられる。小休止という時間がヒロミさんを再ブレークさせた。

■ずっとうまくいく人生なんてあるわけない

 藤田さんは本書で、「ずっとうまくいく人生なんてあるわけがありません」と語る。藤田さんの考えでは、10戦して6勝4敗くらいが良い人生。ならばその4敗をいかに小さくするか。いかに6勝を大きいものにするか。

 どんな人にも人生の勝負どころがやってくる。受験や就職、出世のためのビジネスチャンス。ほんのわずかな期間圧倒的な努力をするだけでその後の人生が変わる。反対に失敗したときはいかに早く“撤退”するか。失敗を認めようとせず、ずるずる引き延ばすと1敗が大きなものになる。

 サイバーエージェントが常に多くの新規事業を立ち上げられるのは、「黒字化までの期間」と「赤字の上限」を決めた「撤退ルール」を設けているからだ。負けのかさむ“博打”を打たないからこそ、次々に新事業を打ち出せる。

 人生も同じではないか。毎日に違和感を覚えたら、まずは自分や周りの環境を疑ってみる。もしかしたら何かに失敗しているかもしれない。失敗を認めず、ずるずると悪いほうに引きずっているかもしれない。

 今の自分に疑問を持ったら、自分に休みをあげたい。立ち止まる時間を自分にあげたい。人間はずっと全力疾走で人生を駆け抜けられないものだ。

若いうちは生き急ぐ。そして失敗する(ヒロミさん)

ダメなら区切りをつけて、次に行けばいい(ヒロミさん)

 小休止の中で明日につながる何かが見つかる。休むことは恥ずかしいことじゃない。次へのステップだ。

気持ちを切り替えて日常に戻ると、囚われていた問題にも別の選択肢があることが見えてきます(藤田さん)

 人生には休みが必要だ。再ブレークを果たしたタレントと、日本を代表する経営者が語る「小休止のすすめ」。ちょっと休みたくなったときは、この本を読みたい。

文=いのうえゆきひろ