発達障害の診断は医者次第? 境界線のグレーゾーンで苦しむ人々

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公開日:2019/1/31

『発達障害グレーゾーン』(姫野 桂:著、OMgray事務局:協力/扶桑社)

 近年、メディアで“発達障害”が取り上げられる機会が増え、関連の書籍も数多く発売されるようになってきた。こうした風潮があるからこそ、「もしかして自分も発達障害なのかもしれない…」と思い悩んでいる人もいるのでは? そんな方にぜひとも読んで欲しいのが、斬新な着眼点のもとに書かれた『発達障害グレーゾーン』(姫野 桂:著、OMgray事務局:協力/扶桑社)だ。

 著者の姫野氏自身も発達障害者。そのうえで長年にわたり、多くの発達障害当事者に取材を重ね、2018年の夏には発達障害者たちの叫びをまとめたルポルタージュ『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(姫野 桂:著、五十嵐良雄:監修/イースト・プレス)を刊行した。

■発達障害グレーゾーンとはどういう状態?

 そもそも発達障害とは、生まれつきの特性で、できることとできないことの能力に差が出る障害のこと。注意欠如・多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)という3つのタイプがあり、障害の程度や出方に個人差があるというのはさまざまなメディアでもよく取り上げられている事実だ。

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 しかし、そんな発達障害の中に「グレーゾーン」と呼ばれる層があることをご存じだろうか。グレーゾーンに位置する人々は専門医から正式に診断された発達障害者ほど症状が重くはなく、クローズ就労(=会社には隠した状態)で働いているため、健常者と同じような期待を背負わされてしまうことも多い。すると、心身共に限界な状態となり、孤立感を高めてしまう。

 本書では、そのようなグレーゾーンに位置する人たちを「グレさん」と呼び、スポットが当たりにくい彼らのSOSに耳を傾ける。人並みのパフォーマンスを発揮しようと、人知れず努力を重ね続けるグレさんたちの人生には、果たしてどんな苦悩が隠されているのだろうか。

■発達障害の判断はかかる病院によって異なる?

 発達障害の診断には「ここからが発達障害で、それ以外は健常者」という明確な線引きがない。発達障害は身体障害とは異なり、周囲が障害の程度を100%理解することが難しい。そのため、医師によって診断結果が異なり、発達障害の傾向はあっても、医師からの診断がくだされない人が出てくる。こうした状況に置かれているのが、グレさんなのだ。

 藁にもすがる思いで頼った医師に障害や生きづらさを理解してもらえない苦しみは、グレさんたちの心に大きな傷をつくる。

 現に、本書の中で病院を3軒渡り歩き、ようやく医師からの診断がおりたという会社員の太一さん(仮名・40代)は、最初に訪れた病院で大学を卒業していることを理由に「発達障害ではない」と医師に言われたという。

 それでも自身と向き合うことを諦めきれなかった太一さんは、2軒目の病院へ向かう。そこでは発達障害のガイドラインに該当していないと言われただけでなく、「発達障害と診断されることで何か利益を得ようと思っていませんか?」と疑いの目を向けられてしまったのだそう。

 太一さんはただ、自分のことを正しく理解し、生きづらさをなんとかして解消したかっただけである。それなのに、どうしてこんなにも心を傷つけられなければならなかったのだろうか。

 グレさんは受け答えもはっきりでき、礼儀正しいことが多いため、世間の人々が抱いている発達障害者のイメージには当てはまりにくい。だが、本人は“発達障害者としても健常者としても認められない自分”に苦しんでいる。

 そんな彼らの抱えている苦しみが少しでも正しくケアされるような世の中になる日は、いつになったら訪れるのだろうか。

■発達障害でも発達障害グレーゾーンでも苦しい…

 発達障害者であるという診断がおりないと、どうしても職場では健常者と同じ仕事を求められてしまう。グレさんたちは周囲の期待に応えるべく、日々努力をしているが、完璧にできない自分に対して自己否定感を抱いたり、職場で馴染めずに苦しい思いをしてしまったりすることも多い。

 今回、姫野氏に生い立ちを打ち明けてくれた浅野香織さん(仮名・36歳)も、そのひとりだ。

 専門学校卒業後に動物病院へ就職した浅野さんは、子どもの頃から周りに「少し変わった子」と思われてきた。そんな浅野さんは社会人になると、周りと同じことができない自分に苛立ち、悩み、心身がボロボロになったという。

“結局、普通の人のなかに紛れて求められることをやらなきゃって思うから、必死なんですよね。”

 そう語る浅野さんは最終的に職場の人間関係で悩み、大病を患ったことがきっかけとなって職場を自主退職。現在は、発達障害の診察を受け、結果が出るのを待っている状況だが、その心中は複雑だ。

“「あなたは発達障害です」って言い渡されたとしても、それを公言したら色眼鏡で見られそうな気もするし。逆に「グレーゾーンだから診断には至らないね」みたいに言われたとしても、「じゃあこの生きづらさ、ツラいと思ってきた気持ちは今後どうなるの」って思うし。”

 また、浅野さんは結果だけでなく、診断後の周囲の反応も不安に感じているという。

“周りの人、私の場合はまず父と母になるでしょうけれど、どういう印象として彼らに届くんだろうってことを想像すると不安です。「甘えに名前をつけてもらいに病院へ行ったんじゃないか」って思われるのではないかという不安が、新たに出ている段階ですね”

 近年は、芸能人の告白も相次いでいるためか、発達障害であると他に突出した才能があるのではないかと誤解している人も多い。しかし、それはほんの一握りで、多くの発達障害者は言葉にできない生きづらさや周りからの心無い視線と闘っている。それはグレーゾーンの人たちにも言えることだ。

 診断の有無に関わらず、彼らが抱えている痛みや苦しみがより多くの人に正しく伝わり、発達障害という状態が優しく受け入れられる。渾身のルポルタージュを読むと、そんな世界になることを祈りたくなる。

文=古川諭香