『弟の夫』作者が描く、ゲイであることに悩む高校生の日常

マンガ・アニメ

2019/2/2

『僕らの色彩』(田亀源五郎/双葉社)

 日常で私たちが「色」として認識しているのは、ものが光を反射した結果見えているものだ。赤い光を反射するから熟したトマトは赤く、緑の光を反射するから木々の葉は緑に見える。だから弱い光しかない場所や夜などの闇の中では、人間の目は色を見分けることができないのだ。

 第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞をはじめ世界中で賞を受賞するなど各方面で話題を集め、NHKでドラマ化もされた『弟の夫』の作者、田亀源五郎さんの新作『僕らの色彩』(双葉社)は、クラスメイトの吉岡健太に片思いをしているゲイの高校生、井戸田宙(そら)の日常を描く作品だ。

 美術部に所属する宙は、空や海の色を敏感に感じ取り、その色をパレットでどう作り、キャンバスへと乗せていくかをいつも考えている。そして恋心を寄せる健太と同じ電車に乗り合わせただけで、「世界中の色彩が鮮やかさを増したようなそんな気分になる」と心の中で幸せを感じている。しかしその感情は知られてはいけない、誰にも相談もできないものであり、クラスメイトたちがしている好きなアイドルや女子の話にはあらかじめ用意した答えを言って嘘をつき、「ゲイは気持ち悪い」という話題になると分厚い仮面で顔と表情を覆い隠し、心が傷つかないよう自衛する。誰かを好きになることだけでも悩む世代であるのに、好きになった気持ちさえ誰にも相談できない……ゲイである自分のことは理解してもらえないのかと絶望すると、宙の見ている世界は一瞬にして光と色を失ってしまう。

 ゲイが気持ち悪いという話に加わって笑う健太を見た宙は、その場にいることが辛くなり、学校を抜け出して海へ向かう。海辺で寝転び、空や海を見つめ、俺の見る世界にはまだ色がある、自分はそんなに弱くない、と押しつぶされそうになる心を守ろうとする宙。するとそこへ見知らぬ男性がやって来て、突然「君を好きだ」と告げ、去っていった。あれは夢だったのか? 悩む宙は、思い切ってその男性を探そうとする……

『弟の夫』第2巻に、ゲイであることに悩む中学生、小川一哉が勇気を出して“弟の夫”であるマイクに相談に来るシーンがある。一哉の内的世界は宙と同じく色を失っており、暗い場所にひとりぼっちで佇んでいた。しかし同じ悩みを抱え、それを克服したマイクが人生初の理解者となり、背中を押してもらったことでこれから生きていく世界に光を得ることができた。同性ゆえの距離の近さに悩む『僕らの色彩』の宙には、今後どんな出来事があるのだろう。物語は同じマンションに住む宙の幼馴染の中村奈桜との関係性の変化、そして誰かが誰かを好きと思う気持ちのすれ違いなど、波乱含みで展開していくことになりそうだ。

 今あなたが目にしている色は、他の人が感じている色とまったく同じ色として認識しているとは限らない。同じものを見ても、自然光や火、電気の光などで違った色に見えるし、同じ色でも色の組み合わせなどでまったく別の色に感じることもある。また時間の経過で変わる色もある。未熟なトマトは青く見えるし、季節が移ろえば木々の葉もやがて枯れていく。今の自分が当たり前だと思っていること、普通だと思っていることは、少し視点が変わればあっという間に見え方が変わってしまうものなのだ。

『僕らの色彩』の第1巻のカバーを外すと、そこにはブルーの鉛筆で描かれた表紙の絵の下書きが印刷されている。どんな色で自分の人生を彩っていくのか、それは自分で決めたらいい――この絵を見て、そんなメッセージが込められているような気がした。今後の展開に期待したい。

文=成田全(ナリタタモツ)

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