教師への暴言、暴力…問題行動を繰り返す子どもの教育に困ったときの「魔法の言葉」とは?

社会

公開日:2019/2/7

『支援・指導のむずかしい子を支える魔法の言葉』(小栗正幸:監修/講談社)

 子育ては難しい。両親が一生懸命愛情を注いでも、聞き分けが悪く話が通じなくなったり、暴言や暴力を繰り返したり、いじめや勉強への苦手意識で不登校になったり、「困ったふるまい」を行う子どもに育ってしまうことがある。

 とても普通の育て方では対処できない状態になったとき、参考にしてほしいのが『支援・指導のむずかしい子を支える魔法の言葉』(小栗正幸:監修/講談社)だ。

 本書では問題行動が徐々に改善されていく「魔法の言葉」とその使い方を解説する。まずは魔法の言葉をいくつかご紹介したい。

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■暴言・暴力が多い子どもへの魔法の言葉

 子どもは段階を踏みながら徐々に成長していく。しかし両親との関わり方に問題があったり学校での人間関係や勉強に失敗したり、成長する過程でつまずいてしまうと、育ちに「ゆがみ」が生じる。そのゆがみが「困ったふるまい」を生んでしまうのだ。

 普段から暴言・暴力が目立つ子どもの場合、対話しようとしても「うざい!」「関係ないだろう!」とすぐに悪態をつくので話にならない。このとき「そういう口のきき方はないだろう!」「なんだその態度は!」と怒りに任せて叱りつけると、ますます反抗的な態度をとる。だからこの魔法の言葉をかけてあげよう。

ねえ、あなたはふだん、がまんしていることが多いように私には見えるのだけど、違うかな?

そういうときは、大声を出したりする前に、私にこっそり教えてよ?

 そもそも「困ったふるまい」を繰り返す子どもは、自身が抱える“複雑さ”を背景に我慢していることが多い。さらにその我慢を「困ったこと」と捉えられないため周囲に助けを求めることができず、解決の手段を見失い現在に至っている可能性がある。

 大切なのは子どもに自分を客観視させること。「我慢できていることが多い」と気づかせる、あるいは思わせると、子どもの興奮は静まりやすくなる。さらに「よいふるまいをするときもある自分」に気づいてもらうことで、「思い通りにならないとき、どのようにふるまえばいいか」自身で考え、両親や教師と話し合える可能性が高まる。

■「ものわかりのよい子ども」へ促す魔法の言葉

 ルールを守らなかったり、「勉強なんて無駄」と無気力でひねくれた態度を繰り返したりする子どもには、つい「いいかい、よく聞きなさい」「わかっていないなぁ。全然違うよ」とストレートで否定的な言葉を投げかけがち。

 正しいことを教えるのは大切だが、「わかっていないから教えてあげる」という姿勢で発するメッセージは、「困っていない子ども」には伝わりにくい。そこでまず「ものわかりのよい子ども」にする魔法の言葉をかけると効果的だ。

あなたもよくわかっているように○○は△△ですよね

こういう話を理解してくれるのはきみくらいしかいないよ

 いくら子どもの主張が間違ったものだとしても、真っ向から大人に否定されると反発してしまうばかりか、勝手な意見を「押しつけられた」ように感じ、「わかろう」という気にならない。

 だから「わかっているように」と“断言する”ことで子どもを肯定して、さらに「きみは特別だからわかる」と持ち上げてあげれば、「わかろう」という気持ちが芽生えやすくなる。伝えたいメッセージは同じでも、そのメッセージの前にかける言葉で子どもの態度はガラリと変わる。

■問題行動を繰り返す子どもほど抱える問題が大きい

 このほか「普段から他者批判を繰り返す子ども」「でたらめを言う子ども」「虚言癖がある子ども」「死にたいと訴える子ども」にかける魔法の言葉を解説する本書。読み進めると、「困ったふるまい」は不器用な子どもが大人へ発信する「SOS」ではないかと感じる。

 問題行動を生み出す根本的な原因として「メタ認知」の不調が挙げられる。「自分は物事をこのように認知している」と理解することで、人は自分を客観視できるようになり、「私」と「あなた」の違いを自然に理解して、人の気持ちを読み取るようになる。これが社会性だ。

 しかし「発達障害の存在」「虐待」「うまくいかない経験の積み重ね」という3つの要因が、子どものメタ認知の獲得を邪魔してしまう。そうなると問題行動やトラブルを繰り返すようになり、大人に「支援・指導のむずかしい子」という烙印を押されてしまう。

 ところが本当は、そう思われてしまう子どもほど抱える問題が大きく、適切な支援・指導を必要としているものだ。人生を正しい方向へ導いてあげることこそ大人の役割。

 子どもに説教したり諭そうとしたりするだけでは反発を招く。子どもの訴えをじっくり聞くと、子ども自身が立ち直ることもある一方、そのまま状況が停滞してしまうこともある。正しいことを説くだけじゃなく、話を聞いて受け入れてあげるだけじゃなく、子どもに理解を促し自分で正しい方向へ歩いていける「対話」まで行うのが教育だ。そこで活用したいのが、本書で解説される「魔法の言葉」。

 先日も生徒が教師をけしかけてわざと暴力をふるわせる事件が起きた。子どもの教育現場はますます難しいものになっている。むしろ学校現場がSOSを発信する事態があちこちで見られるが、その根底には子どもがSOSを発信している可能性があるということを忘れてはならない。彼らにはまだ更生の余地があるはずだ。

 子どもを助けるばかりか、教育に関わる親や教師にも助けを授けようとする本書。子どもの「困ったふるまい」に悩む人はぜひ手に取って参考にしてほしい。

文=いのうえゆきひろ