茫然自失! 犯罪がエスカレートするペット業界のウラ側に迫る“どんでん返しミステリー”
2019/2/11

2017年に公開された映画『22年目の告白 私が殺人犯です』は予想外のラストに観客がド肝を抜かれた、どんでん返しミステリー。主演を務めた俳優・藤原竜也の演技力も大きな話題となった。
そんな人気作を生み出した作家・浜口倫太郎氏の新作『私を殺さないで』(徳間書店)は、前作以上に衝撃的で“命の重み”にスポットを当てたミステリー小説となっている。
「人間ドラマをきちんとかける作家になろう。ブレイクはあとからでも十分できる」――そう思いながら『アゲイン』(ポプラ社)や『宇宙にいちばん近い人』(ポプラ社)といった文芸作品を生み出し続けてきた浜口氏。そんな彼が、完成させた後もなお発表するのを控えていたというミステリー小説が、本作だ。
人間ドラマを突き詰めた浜口氏が辿り着いたミステリー小説には、果たしてどんな“願い”が込められているのだろうか。
■ペット産業の裏側に迫った新感覚ミステリー
4万3216匹。この数字は平成30年に環境省が発表した、全国の犬猫の殺処分数だ。近年、日本では「保護犬」や「保護猫」を家族として迎え入れる風潮が広まってきているが、その裏では悪徳ブリーダーやペットオークションなどといった、ダークなペット産業がおいしい思いをしている。
本作は、そんな悲しいペット業界の裏側に迫った新感覚ミステリー。浜口氏は実際に獣医師などに取材を行いながら、作品を完成させたという。
物語は、ブランド商品のレンタルショップの経営に失敗した三津間宗近(みつま・むねちか)が同窓会の案内状を見て、地元の奈良へ帰郷することから始まる。懐かしの故郷で、宗近は中学時代の親友・溝部俊平と久しぶりの再会を果たす。俊平は小学校で動物体験学習会をボランティアで行ながら、動物への正しい知識を広める獣医師となっていた。
そんな動物愛の強い俊平は宗近に、知り合いの子どもが飼っていた三毛猫のミドリが空き巣に盗まれたため、探してほしいと頼む。依頼を受けた宗近は俊平の顔なじみの中学生・天野颯太と協力し、いなくなった猫の行方を突き止めることに…。
そんなある日、俊平のスマートフォンにヴィクトリア朝時代の犬泥棒、チェルシー・ジョージを名乗る人物からミドリの死体写真が送られてきた。これにより、状況は一変。ペットの惨殺事件は人間の殺人事件にまで発展し、宗近たちはペット産業や人の心の闇を目の当たりにすることとなる。
果たして、犯人は一体何の目的でペットを盗み、惨殺しているのだろう。その理由に触れた時、読者の心は激しくえぐられるはずだ。
■動物と人間の命には差があるのか?
人と動物の命の重さには、差があるのだろうか。本作を読み進めていくと、そんな疑問が湧いてくる。
日本はペット産業が盛んだが、動物が暮らしやすい国であるとは言えないかもしれない。日本の法律上、動物は“物”として見なされ、ペットは飼い主の所有物として扱われるため、ペットの命を握っているのは私たち人間であるといえるからだ。
しかし、人間と動物の命の重さにおいて、境界線はどこにあるのだろう。人間は動物の命を自由にできるほど、立派な存在なのだろうか。
“ペットは、スマホやタブレットのような無機質の商品ではない。作りすぎたから廃棄する。普通の商品ならばそれでいいかもしれない。だが、ペットはそうはいかない。生き物なのだ。人間と同じく、命のあるものなのだ。”
宗近が作中で感じたこの想いは、ペット産業で苦しめられている動物たちの悲しみを代弁しているようだ。飼い主から大切に愛されるペットがいる裏で、身勝手な都合で虐待・殺処分されるペットや売れ残ったからといってぞんざいに扱われる命が日本には溢れすぎている。そうした、ペットを取り囲む光と闇を本書は教えてくれているように思う。
人間を受け入れ、愛してくれるペットたち。彼らは素直で愛情深いからこそ、友人や家族以上の存在になることもあるし、いたずらに命を奪われる対象として狙われてしまうこともある。ペットを取り囲む闇を晴らすため、私たち人間にはどんなことができるのだろうか。
文=古川諭香
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