「孕ませてやる、俺の子を」運命のつがいを探し出す近未来エロティファンタジー

マンガ

更新日:2019/7/8

Bite Maker 〜王様のΩ〜
『Bite Maker 〜王様のΩ〜』(杉山美和子/小学館)

 男や女以外の第3の性別が登場するオメガバース漫画は近年、多く刊行されている。しかし、その中でも異彩を放っているのが、杉山美和子氏が新境地を開拓した『Bite Maker 〜王様のΩ〜』(杉山美和子/小学館)だ。

「この作品を描くために、デジタル雑誌『&フラワー』に電撃移籍をした」とまで作者が語る本作は、新宿が舞台。α(アルファ)やβ(ベータ)、Ω(オメガ)という性別が存在することが判明した1世紀後の世界を描いている。

 作中に出てくるβは最も一般的で、人口の大半に当たる性別のこと。対して、αはTOKYOで10万人に1人の割合でしか存在しないレアな性別。αは生まれつき、容姿や頭脳、能力に秀でた特別な遺伝子を持っているのが特徴だ。

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 そして、そんなαよりもさらに希少なのがΩ。Ωは繁殖に特化しており、確実にαを生むことができるが、絶滅危惧の性である。

“孕ませてやる オレの子を”

 こんな衝撃的なキャッチコピーのあるカラーページが真っ先に飛び込んでくる本作は、αである信長にβが発情するシーンから物語が幕を開ける。圧倒的なフェロモンを出す信長にかかれば、βを落とすことは朝飯前。そう分かっているため、信長はβには見向きもせず、自分を満たしてくれるΩを探し求めていた。

 一方、Ωである豆崎のえるは、βとして普通の高校生活を満喫中。持って生まれた美貌とΩであることを隠し続けながらひっそりと生きていた。しかし、ひょんなことがきっかけで、のえるは信長と出会ってしまい、彼女の人生は大きく変化していくことに…。

 また、のえるとの出会いを機に信長の心にもある変化が表れはじめる。

“メスは好きになるもんじゃなくて子を産ませる道具だろ”

 女性をそう軽視する信長は、果たしてのえるをどう愛していくのだろう。本能と理性がたたかい、たったひとりの運命のつがいを探し出す近未来エロティファンタジーから、あなたも目が離せなくなるはずだ。

■王道ではない設定とエロさに胸キュン

 本作は美人とイケメンがハッピーエンドになるような、王道の恋愛漫画に飽きた方にこそ手に取ってほしい作品だ。

 ヒロインののえるはΩであるがゆえに、オスの本能をフェロモンで刺激してしまうため、普通の恋愛をすることが難しい。男を惑わせ、狂わせる。のえるは、そんな残酷な宿命を背負いながら生きていかねばならない。そして、αである信長もβ相手では満たされないため、Ωを求めることでしか心身を満足させられない。希少な存在として選ばれた2人は、同じような孤独感を背負っていく運命にある。

 悲しく淫らに廻りはじめた2人の宿命はやがて、周囲の人々をも巻き込んでいくように…。宿命によって繋がった奇妙な関係は、「恋愛」と呼べる形に行きつくのか、チェックしてみてほしい。

 また、本作ではちょっぴりエロい描写が楽しめるため、読者はより胸がキュンとなってしまう。恋愛漫画が苦手でも「信長様に抱かれたい…!」「のえるのフェロモンが羨ましい」と思えてしまうから不思議だ。1コマ1コマから溢れ出る主人公たちのフェロモンはきっと、あなたの心を火照らせるだろう。

文=古川諭香