ぶっ飛んだ設定にはまる! サイコパスな殺人鬼VS脳を盗む「脳泥棒」…2019年このミス大賞受賞『怪物の木こり』

小説・エッセイ

2019/2/15

怪物の木こり
『怪物の木こり』(倉井眉介/宝島社)

 ミステリー小説に凶悪な殺人犯はつきもの。サイコパスな殺人犯と警察の攻防を描いた小説は数多く刊行されている。しかし、『怪物の木こり』(倉井眉介/宝島社)は、一味違う。なぜなら、本作はサイコパスな殺人鬼と頭を割って脳を盗む「脳泥棒」が最凶の殺し合いを繰り広げるからだ。その斬新な設定は高く評価され、2019年・第17回『このミステリーがすごい!』大賞では大賞を受賞した。

 物語の主人公は、善人の仮面を被りながら周囲を騙している辣腕弁護士の二宮彰。二宮は人を殺しても何の罪悪感も抱かないサイコパス。自分の邪魔をする相手は容赦なく殺し、権力や名誉というシンプルな欲望を満たしながら生きていた。

 しかし、そんな二宮の前にある日、レインコートと怪物マスクを身に着けた男が現れる。頭に鋭い牙と大きな耳の生えた怪物マスクの男は突如、二宮の頭を斧で襲撃。奇跡的に二宮は一命を取り留めるが、その日以来、怪物マスクの男への復讐心に燃えるようになる。

 だが、二宮はこの襲撃事件を受け、自分の脳に人間の感情や記憶を操作する「脳チップ」が埋め込まれていたことを知る。そして、それを機に二宮には“ある変化”が見られるようになり、彼の人生は大きく変化していく。

 一方、世間では頭を斧で叩き割り、脳みそを持ち去るという奇妙な連続殺人事件が発生する。果たして、「脳泥棒」が脳みそを持ち去らなければならない理由とは一体なんなのか。連続殺人事件の背後に隠された大きな闇を知ったとき、読者はこれまでにない恐怖を感じるはずだ。

■怪物の木こりが教える「人生の意味」

 サイコパス×脳泥棒という、これまでにない対決に心躍らされる本作はよくあるミステリー小説とは異なり、警察が脇役として描かれているのもユニークな点。スリリングな展開にわくわくし、思わずページをめくる手が止まらなくなってしまう。特にp.151からは、一気読み必至。読み進めるごとに背筋が寒くなるが、読後には「人生の意味」を考えさせられてしまう奥深さがあるから不思議だ。

 サイコパスな二宮は自分と他人の間に境界線を感じ、他人の痛みが分からない。だから、殺しも簡単に行うことができる。本人もそんな自分に嫌気がさすこともない。しかし、ストーリーが進むにつれ、二宮の心は変化していき、その姿に読者は「生きる意味」を考えさせられる。二宮が涙する場面では思わずもらい泣きをしてしまう読者も多いだろう。

 一見、ドロドロとしたストーリーのように思えるのに、蓋を開けてみれば泣けて、爽やかな気持ちになれる。それが本作の凄さだ。人間らしく普通に生きていくことは、どれほど難しいことなのか。そう考えさせてもくれる本書は、単なるミステリー小説の域に収まらない。

“木こりさんは木こりになれる怪物じゃなくて、怪物になれる木こりなんだよ。だから、いつもは木こりの姿をしているんだよ。”

 衝撃のラストを噛みしめた後はぜひ、この本文の「木こり」を「人間」に置き換えてみてほしい。

文=古川諭香

この記事で紹介した書籍

【2019年・第17回「このミステリーがすごい! 大賞」大賞受賞作】 怪物の木こり

作家:
出版社:
宝島社
発売日:
ISBN:
9784800290625