再会した幼なじみに騙され「婚姻届」を書かされた!? 不器用暴君×おっとり少女の恋の行方は?

マンガ

更新日:2019/2/13

『マリッジパープル』(林みかせ/白泉社)

「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」と言ったのは一万円紙幣でおなじみの福沢諭吉だが、マンガ『マリッジパープル』(林みかせ/白泉社)に登場する坂本諭吉は唯我独尊、常に上から目線の男子高生。中高一貫校の私立で中学時代から名を轟かせ、高1にして生徒会長に就任。頭脳優秀・眉目秀麗。黄色い歓声がとびかうなか、ひとり彼から逃げ続けている女子がいる。それが鈴宮凛。本作の主人公だ。

 弟の通う学校の高等部に憧れ、難関を突破して見事入学した凛は、諭吉と3年ぶりに再会する。小学校時代、執拗に絡まれた経験から「この暴君には抵抗しないのがいちばんの対処法」と心得るが、諭吉はそう簡単に逃してくれない。ぼんやりマイペースの隙をつかれて、なんと婚姻届にサインさせられてしまうのだ。ぼんやりにもほどがある。

 しかも、どう見ても全力で口説かれているのにまるで気づかないどころか、婚姻届=「お前を一生かけていたぶってやる」の意思表示ととらえる始末。婚姻届奪還のためとはつゆしらず、デートの誘いにOKされたと無邪気に笑う諭吉があわれに思えてくるが、「言動の好意を感じたことがない」と言い切られるほど過去の行いが悪いのだ。

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 さらに凛の好意が自分に向いていないと知るやいなや「返してほしけりゃ3年間オレから逃げるな」「一生か3年か選べ」と突きつける暴君ぶり。かくして2人の不器用な恋がスタートするのである。

 心のオアシスである山岳部にまで乱入され、諭吉に翻弄される日々を送る凛。敵を倒すにはまず敵を知ることから、と諭吉メモをとりはじめるのだが、初めて彼と真正面から向き合ったことで、単なる理不尽暴君と思い込んでいた諭吉が、意外と筋を通す男だということを知る。諭吉とて、ただでハイスペックになったわけじゃない。中学時代から生徒会長として支持されるのも、公正で適正な判断力と実行力をもってこそ。打倒諭吉をめざした行為が、少しずつ彼の魅力を気づかせてくれる。

 冒頭に書いた福沢諭吉『学問のすゝめ』からの引用には続きがあって、要約すると「そうは言っても世の中にはいろんな格差があるよね」「学びを得るかどうかで賢人と愚人はわかれるし、学問に勤めれば貴人・富人にもなる。無学な者は貧人・下人になる」――つまりは「勉強しろ」と言っている。生まれつきの才能や運はある。けれど現実をフラットに受け止めて、自分にできることを精いっぱい尽くす凛の姿に、そんな彼女にひそかに救われている諭吉の姿に、本当の意味での賢者を描こうとしているのでは……というのは深読みしすぎかもしれない(でも諭吉って名づけたからには意味があるはずだと思うのだ)。

 まあ、そんな深読みがなくとも恋愛模様じたいとても気になる作品である。山岳部仲間でクラスメートの佐和田くんの参入で三角関係に発展するか? 凛の数少ない友達で、なんなら諭吉より佐和田より大好きなめぐちゃんの「4年間片想いしている人」とはだれか?  不器用暴君の想いが報われる日を願いつつ(個人的には佐和田を応援しつつ)2巻を待ちたい。

文=立花もも