給料をサイコロで決める上場企業「面白法人カヤック」におもしろい人材が集まる理由は?

ビジネス

公開日:2019/2/18

『鎌倉資本主義』(柳澤大輔/プレジデント社)

 働き方改革の波が押し寄せる昨今。私達は、どう働くか? ではなく、どう生きるか? と、問われているのかもしれない。様々な企業が、リモートワークの導入や副業の解禁を進めているが、果たして私達はそれらを上手に活用し、人生を豊かにできるのだろうか。

 そんな時代の変わり目に、社員の給料をサイコロで決める「サイコロ給」や、好きな場所に数ヶ月住居兼オフィスを借りて仕事ができる「旅する支社」など、一風変わった社内制度を導入しているITベンチャー企業がある。その名も「面白法人」を名乗る、株式会社カヤックだ。

 CEOである柳澤大輔氏は『鎌倉資本主義』(柳澤大輔/プレジデント社)で、上場企業でもある面白法人カヤック流の働き方を解説している。

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■天に評価を任せる「サイコロ給料」

 カヤックには「サイコロ給」という制度がある。インパクトのあるネーミングだが、実際は「基本給×(サイコロの出た目)%」が+αとして支給される仕組みだ。衝撃的すぎる運まかせシステムだが、「サイコロ給」に込められた想いは、意外にも真面目なものだった。

 人の評価は、実際のところかなり不安定だ。上司のさじ加減ひとつで面白いくらいに上下する。実際はまったく面白くないのだけれど。

 面白さに重きを置くカヤックでの評価基準は「面白がって働いているかどうか」。ならば最後の最後くらいは評価や運命を天に託そう、ということでこの制度が誕生したのだ。

 一見、突拍子もない制度にも思えるが、既存の評価制度では測れない価値に対して新たな指標を提案することは、慣例化した制度から脱却しようとする今の日本の社会において大きな意味があるはず。

■「誰と、どこでするか」という指標で選んだ鎌倉という場所

 面白法人カヤックは、その名の通り常にユニークなコンテンツを世にリリースする。2014年には東証マザーズへの上場を果たすほどに成長し、昨年ついに創立20周年を迎えた。

 そんなカヤックは2018年11月、数百人の社員と共に、主要拠点を横浜から鎌倉へ移した。上場企業がわざわざ鎌倉に来る必要などないのではないか、と感じてしまう。しかし、採用観点からもオフィス事情からも不利と思われる鎌倉に拠点を置くことで、自然とカヤックを仕事先に選ぶ人はふるい落とされていく。結果として、純粋にカヤックで働きたいと考える「面白い人材」が集まってくるのだ。

 さらに鎌倉に本社を置くだけでなく、自治体や地域コミュニティを巻き込み、鎌倉で働く人向けの「まちの社員食堂」や「まちの保育園」など、新しいサービスを展開し、鎌倉の魅力をさらに発展させることにも力を入れている。

 面白がって取り組めばアイデアは無限に溢れ出し、様々な人と協力することで、突拍子もないアイデアも実現できるのだろう。誰と、どこでするか、という経営理念を、カヤックは鎌倉という土地で実現した。

■無謀な挑戦と思えてもまずはできるところから

地方都市に行くと、“リトル東京”のようなところが少なくありません。東京は確かに素晴らしい都市ですが、日本中が東京のようになったら、ちっとも面白くない。

 都心に近い鎌倉という街でも、抱えている問題はかなりシビアだ。観光収入は限られているし、高齢化により人口は減少し、街の活力は失われつつある。東京化するか、衰退するか、二極化してしまった地方にとって、一番必要なのはカヤックのようなエンジン的存在なのだろう。

 カヤックが鎌倉にやって来たことで、「面白がってつくる」という一貫した精神は、徐々にポジティブな変化をもたらした。冒頭で述べたように、私達の働き方は大きく変化しようとしている。そして経済的な豊かさだけでなく、個人の幸福度や、精神的な豊かさを追求することも重要になるだろう。

 面白法人カヤックが掲げている「誰と、どこでするか」という考え方は、そんな問題に直面している私達に新たな道を示しているのかもしれない。

文=和泉洋子