ラストの衝撃に耐えられるか――ひとり残業中に火事に遭遇、九死に一生を得てから「この冬、君は死ぬ」と告げられ……

文芸・カルチャー

2019/2/16

『この冬、いなくなる君へ』(いぬじゅん/ポプラ社)

 文具会社で働く菜摘は、仕事にやり甲斐を見い出せず、私生活も充実しない日々を送っていた。そんなある12月の夜、会社でひとり残業をしていると火事に巻き込まれ、謎めいた青年・篤生に助けられる。篤生から「この冬、君は死ぬ運命だった」と告げられた菜摘は、それを退けたことで自分の人生が大きく変わっていくことを知る――。

「奈良まちはじまり朝ごはん」シリーズ(スターツ出版)、『新卒ですが、介護の相談うけたまわります』(一迅社)などのヒット作を多く手がける人気作家・いぬじゅんさんの新作、『この冬、いなくなる君へ』(ポプラ社)が好評発売中だ。

 主人公は24歳のOL、菜摘。職場では上司からパワハラまがいの扱いを受け、同僚とも友だちともコミュニケートがとれず、家に帰れば口うるさい母親から早く結婚するよう催促されている。毎日がちっとも楽しくない、生きるのがつらい……と感じていた矢先に火事に遭遇し、九死に一生を得た結果、篤生から思いも寄らないことを教えられる。

 それは、これから毎年12月に、運命が菜摘に〈死〉を与えようとすること。そしてそれは30歳になる6年後まで続くこと。

 あまりにも突拍子のない託宣に半信半疑の菜摘だが、篤生の言うとおり、12月になると色々な事件や出来事が降りかかってくる。それは必ずしも菜摘自身にではなく、彼女の周囲にいる人々が危機に陥ることも。

 たとえば会社の同僚や、学生時代からの友人。父や母など家族の身に災いが降りかかる年もやってくる。

 篤生曰く「心が死んでしまった人は、やがて意識しなくても自ら死を選ぶようになる」。

 つまり、近しい人々の不幸によって、菜摘自身の心も死んでしまうかもしれないというのだ。そうなるのを回避するため、篤生の助言に背中を押されて菜摘は少しずつ動きはじめる。これまでずっと委縮して、自分の内に閉じこもっていた生き方を改めて、外の世界に目を向ける。

 そうして自分を取り巻く色々なことが変わっていき、一歩ずつ、だけど確実に菜摘は変わっていく。死から生へと目を向けて、生きることを楽しみ、やがて自分を見守っていてくれる人の存在にも気がつく。

 運命を変えることは、自分を変えることでもある。

 デビュー作『いつか、眠りにつく日』(スターツ出版)から生と死について書き続けてきた作者の死生観は、本作品でも随所に見られる。

〈死神〉なのか〈守護神〉なのか。ミステリアスな篤生の意外な正体は、最後の最後で判明する。菜摘と篤生の結びつきが明らかになる最終章を読み終えたとき、せつなくも温かい涙があなたの目からあふれるだろう。

文=皆川ちか