性差別と、それに立ち向かう人々の姿―理不尽な差別に正面から向き合うことの大切さ

社会

2019/2/19

『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ:著、斎藤真理子:訳/筑摩書房)

 家庭で、学校で、職場で、前に進もうとする女性の前に立ちはだかり行く手を阻んできた性差別。『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ:著、斎藤真理子:訳/筑摩書房)は、“女性である”というだけで降りかかる性差別を真正面から描き、韓国で社会現象を巻き起こした大ベストセラー作品だ。映画化も決定しており、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)で共演したチョン・ユミとコン・ユの出演が決定している。評者は主人公のキム・ジヨンとほぼ同い年の日本人女性という立場だが、国は違っても共感する部分はとても多く、また、女性差別という枠を超えて、世に蔓延するさまざまな差別について考え直すきっかけともなった。

 30代の主婦、キム・ジヨンは、ある時から突然自分の母親や学生時代の先輩が憑依したかのような話し方をするようになる。心配した夫のデヒョンは彼女を精神科に連れていくが――。物語は、このキム・ジヨンという韓国人女性のこれまでの生い立ちについて、彼女の担当医によるカルテという形で綴られていく。

 キム・ジヨンのカルテを通して、日常生活の中がいかに差別に満ち、多くの人がそれに耐えながら生活しているかがありありと描かれる。家庭でも学校でも男性優先が当たり前。通学路では痴漢の被害に怯え、就職活動では女性というだけで苦戦を強いられる。セクハラに耐え何とか仕事をがんばっても、やりがいのある仕事は男性に任され、子どもを産めば育児のために退職せざるをえず、主婦というだけで「旦那の稼ぎで楽している」と罵られる。

 もちろん、キム・ジヨンが成長する中で、国民の意識の変化や法改正など、女性差別をなくそうとうする動きがないわけではない。だが、〈決定的な瞬間になると「女」というレッテルがさっと飛び出してきて、視線をさえぎり、伸ばした手をひっつかんで進行方向を変えさせてしま〉う。幾度も悔しい思いをしながら、女性たちは毅然とした態度で差別に立ち向かっていく。

 女性差別とそれに立ち向かう女性たちの話中心であるものの、決して「女性対男性」などという安易な図式を描いているのではないし、男性に憎悪の目が向けられているのでもない。本作が浮き彫りにするのは、男性への攻撃ではなく、性差別を放置する社会への問題提起だ。たとえば、キム・ジヨンの会社で長期プロジェクトが立ち上がった際、同期の社員の中で男性だけがプロジェクトに抜擢される場面がある。会社は、出産・育児で退職してしまう女性社員よりも、長期間働いてくれる男性社員を育てたほうが利益があるからそうするというのだ。このことは、男性社員もまた自身の実力よりもまず性別によって判断されていることの裏返しでもある。「男はいい大学出ていい会社入って出世して稼いで女子どもを養って一人前」といった伝統的価値観に縛られ押さえつけられる男性の姿をも浮かび上がらせるのだ。

 性別に限らず、自分と立場の違う人々について無意識のうちにレッテル貼りして追い込んでいないか、一度立ち止まって考えてみること。その大切さに気付かせてくれる作品だ。

文=林 亮子