「非リア充」はエコでコスパのいい生き物!? カレー沢薫が「非リア充」の生態を論じた一冊

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公開日:2019/2/23

『非リア王(講談社文庫)』(カレー沢薫/講談社)

 30歳を超えたというのに「自分の知らないうちに開催されていた同窓会」や「高校の卒業式で、300名以上の卒業生がいたにもかからず、誰よりも早くぼっちで学校を去った日のこと」が忘れられない。リア充か非リア充かと問われると、筆者は確実に「非リア」に属しており、「仲間」や「絆」といった単語を聞くと体がこわばる。

 しかし、仲間と楽しくBBQなどはできなくとも、ネットでコミュニケーションをとることは可能だ。大人になると友人が必要な機会も激減する。

「非リア充」は本当に悪いことなのだろうか?

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 カレー沢薫の『非リア王(講談社文庫)』(講談社)は、「非リア充こそ最高の生き方であり、俺はその王である」と、「非リア充」をポジティブに捉え、見つめ直した一冊だ。

 24時間中48時間Twitterをしており、負け組の立場から執筆したコラムが読者の胸を打つことで有名なカレー沢先生が、非リア充がいかに優れているかを、様々な視点から解説している。

「非リア充」と聞くと、SNSに自撮りや仲間たちとの楽しげな写真を載せている「リア充」とは真逆の存在で、協調性に欠けており、ネットの世界で暴れる暗い人……というイメージを持つ人もいるかもしれない。

 だがカレー沢先生は、非リア充は、無機物全てが話し相手なので、ある意味友達が多いともいえる、クマムシぐらい強い生物だと定義する。

 またリア充は、精神的充足を得るのに、誰かと外で道具を揃えてBBQなどしなくてはいけないが、非リア充は一人で家から出ずパソコンやスマホ一台で、それを得ることができるコスパのいい生き物だと考えるのだ。

「結婚しているから非リア充ではない」という突っ込みにも、立場は関係ない、目に映るもの全てに不満を持ち、その怒りをTwitterにブチ撒ければ立派な「非リア充」であると心強い指摘をされていた。

 しかし、我々「非リア充」が最終的に目指さねばならない「非リア王」のポジション。

 ……「王」ともなると、自撮りはもちろん、赤ん坊、果ては動物の写真にも怒り狂うレベルの才能が必要だが、非リア王がムカついた後何をするかというと「何もしない」。正確に言うと「ムカついたことをネットに書かない」スマートな行動の大切さにも触れており、非リア充としてまだまだ未熟者の筆者は、目から鱗が落ちた。

ネット上だけではない、怒りを周囲に撒くというのは品の悪いことなのだ。

 という一文に、カレー沢先生の素晴らしい生き様が感じられ、胸が熱くなった。

 また本書では、「非リア充」が壁としか対話せずとも生息可能なのは、ひとえにIT技術の目覚しい進歩があったから……という理由で「IT用語」のコラムや、“発想が平成マイナス30年”な「東京医科大の入試不正」などをテーマにした時事コラムも収録されている。

 ユーモラスな語り口で、鋭い指摘を繰り出すカレー沢先生の文章は、読者に大きな共感と安心、そしてお腹がよじれるほどの笑いを与える。

「非リア充」である自分にコンプレックスを隠せない筆者だったが、新しいものに期待をしない、悪いことがなければ良いと思っている「非リア王」の生き方こそ、今の時代は幸せになれるのではないかと感じた。

 少々の出来事には動じない、柔軟性のある非リア充の生き様を、本書を読んで参考にしてみてほしい。

文=さゆ