恋あり謎ありあやかしあり…アニメ化も話題のお江戸ファンタジー最新刊!

文芸・カルチャー

公開日:2019/2/23

『つくもがみ笑います』(畠中恵/KADOKAWA)

 古い人形が意思をもって動き出す、というのは怪談の定番だが、人形に限らず長い時を生きた道具には魂が宿るという。優れた名品や人の想いのこめられた古道具が、100年の時を経て自由に話し動き回れる“付喪神”となり活躍するのが『つくもがみ貸します』(KADOKAWA)から始まる「つくもがみ」シリーズだ。著者の畠中恵さんといえば、病弱な若旦那と彼を見守る妖怪たちをめぐる「しゃばけ」シリーズ(累計840万部突破!)が人気だが、あやかしのかわいさと、彼らとの対比で描かれる切なさを孕んだ人間模様は、最新刊『つくもがみ笑います』(畠中恵/KADOKAWA)が刊行されたばかりの本シリーズも負けてはいない。

「つくもがみ」シリーズの魅力はなんといっても「時を経ること」にある。付喪神の話だけではない。付喪神とかかわる人間たちも、だ。

 物語の舞台となるのは、つくもがみたちが多数おわします出雲屋。深川の古道具屋兼損料屋だ。損料屋というのは、鍋や根付、ふとんなど、保有している古道具をなんでも貸し付けてくれる店のことだが、出雲屋は「銭さえくれりゃ墓参りでも届け物でも」承る。それゆえさまざまな頼みごとがもちこまれ、主人の清次は姉のお紅とともに、付喪神たちの助けを借りて解決していくのだが、1巻では、実は血の繋がっていないこの2人の微妙な恋模様を描いていた。2巻『つくもがみ、遊ぼうよ』では当然、“その後”の2人が堪能できると思っていたら、主軸となるのは11歳の少年・十夜。清次とお紅の息子である。その友連れとして幼なじみ市助とこゆりも登場し、「そこと家族ぐるみになるのかよ!」と驚かされもするのだが、さらに驚くべきは十夜出生の秘密…。

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 続く『つくもがみ笑います』では、跡取りとして店で働く15歳の十夜の前に、“出雲屋の外”から新たな付喪神が現れる。「人からとんでもない目にあわされている付喪神の窮状を打破するために、仲間を集めて世直しするのだ!」と鼻息を荒くする小刀の阿真刀ひきいる3人衆に、蝙蝠根付の野鉄や掛け軸の月夜見など、おなじみの付喪神たちがさらわれてしまうのだ。阿真刀たちの背後には、十夜を「兄さん」と呼ぶ春夜、彼の養父である阿久徳屋(その名のとおり悪徳な商人だ)が控えており、どうやら十夜の出生について何か知っているらしい。だけでなく、壊れてしまった仲間をとりもどしたい阿真刀とともに、200年前の屏風のなかに時空を超えた旅をしたり、いつのまにか存在が知れ渡ってしまった付喪神たちが原因で、危険に晒されたり。さまざまな事象が絡んで、次から次へと波乱が巻き起こる。

 生きるとは、変化するということ。肉体も心も、同じ場所にとどまることはできない。本シリーズのカギとなるのはいつも、その“うつろい”だ。ときに悲哀をにじませながら、けれど必ずユーモラスと希望をもって描き出す。人間も、付喪神も、生きている限りはみな未来へと向かっていくこと。そして未来は、それでも“変わらない毎日”の先にあることを。

〈ああまた、面白いことが起きるに違いないよ〉と付喪神は言う。泣いて笑って騒がしい、出雲屋の愉快で賑やかな日々を、読者も一緒に楽しんでみてほしい。

文=立花もも