「お受験」に遺伝や家庭環境はどう影響する? 人間社会に潜む残酷なタブーに迫る!

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公開日:2019/2/27

『もっと言ってはいけない(新潮新書)』(橘 玲/新潮社)

 人は真実を知りたがる生き物だ。しかし、人によっては、真実が自分の気に入らないものであった場合、目をふさぎ、見なかったことにするときがある。それどころか、自分にとって都合が良い「ウソ」の情報を信じようとすることすらある。

 インターネットが普及し玉石、虚実入り交じった情報の中から、個人が自由に取捨選択できる時代。子どもの育児や教育についても、自分とわが子に合った方法が見つけやすい。一方で、親にとって不都合な「真実」は、あえて親が探そうともしないし、表立ってさらされることもほとんどない。

 2017年の新書大賞を受賞した『言ってはいけない 残酷すぎる真実』の続編である『もっと言ってはいけない(新潮新書)』(橘 玲/新潮社)は分子遺伝学、脳科学、統計解析、人類学など、現代の人間社会に潜む残酷なタブーを最新知見から解き明かしている。

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 例えば、親にとって不都合な真実とは、何か。本書は、遺伝率について、あまり表立って取り扱われていない事実を、赤裸々にしている。特に、育児・教育熱心な親は、考えるところがあるかもしれない。

 俗に「氏が半分、育ちが半分」といわれる。氏は遺伝、育ちは環境だ。行動遺伝学では、環境を「共有環境(育ち)」と「非共有環境(友だち関係)」に分ける。多くの熱心な親は、「氏」はどうしようもないものの、「半分」とされる育ち(共有環境)で子どもの未来を明るくしたいと考えている。しかし、行動遺伝学によると、音楽や数学、スポーツなどの才能だけでなく、外交性、協調性などの性格を含む子どもに関するほとんどの領域で、共有環境の寄与度は驚くほど小さい、という。

 さらに、不都合な真実は続く。認知能力に及ぼす遺伝の影響は、子どもが成長するにつれ、着実に上昇していく、というのだ。つまり、環境要因は後景に退いていく。大半の人はきっと、赤ちゃんのときに遺伝の影響がもっとも大きく、成長するにつれて家庭や学校などで多様な刺激を受けるのだから、環境要因が強まって遺伝の影響が小さくなる、と考えている。しかし、そうではなく、思春期に徐々に開花していくのは、「生得的な能力」なのだ。本書は、それまで遊んでいた子どもが一生懸命に勉強する子どもたちの成績を一気に抜き、「自頭がいい」といわれる現象がそれだと述べる。

 共有環境の寄与度は驚くほど小さいとはいえ、ゼロではない。本書によれば、子どもが思春期になって遺伝率が上昇してからの親の努力はほとんど役に立たないが、例えば私立幼稚園・小学校の「お受験」の結果くらいまでは、家庭環境の影響も無視できなそうなのだ。

 これが事実だとすると、救いがない、とガッカリする親がいるかもしれない。他方、それでも子どものために何かできることを、と考える親もいるだろう。情報社会ゆえに、情報との上手な付き合い方が個人に求められるといえそうだ。

文=ルートつつみ