きっかけは夫の口腔底がん――えっ、これが介護食!? 目にもおいしい“長生きごはん”

健康・美容

公開日:2019/2/25


 食べることの最大の目的は、生きるために栄養を摂取すること。しかしおいしいものを食べて幸せを感じること、「今日は何を食べよう?」と食事を楽しいものにすることも大切なことだ。そしてそれは、加齢や何らかの病気で噛む力が弱くなってしまった人にとっても同じ。ただ栄養を摂るだけのつまらない、おいしくない食事では、つく力もつかない。

 そんな、噛む力が弱くなった人たちにも食べる楽しさを感じてほしい、という思いで書かれたのが、『噛む力が弱った人のおいしい長生きごはん 誤嚥を防ぐ!』(クリコ:著、阿部仁子:監修/講談社)だ。本書は、口腔底がんという口の中の病気で噛む力を失った夫のためにと考案された「介護食」のレシピ本。噛む力、飲み込む力に合わせた料理ができるよう、A~Fにランク分けされ、その程度に合った調理方法、注意点が分かりやすく解説されている。

 介護食を作るに当たって食材を食べやすくするのは必須事項だが、柔らかく茹でてペースト状にしたり、細かく刻んだりするのは意外と大変なもの。フードプロセッサーやミキサーを使うにしても、毎回洗うのは結構な手間だ。作る側にだって感情もあれば体力に限界もあり、できることには限界がある。そのためクリコさんは、継続してこの介護食を作るため、介護食用の作りおき「ベース素材」を作っておくことを提案している。

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 ベース素材とは、野菜や肉、えびなどを食べやすく加工し、製氷皿や保存袋などに細かく分けて冷凍したもの。これを作っておくことで、栄養満点で食欲をそそる、おいしい料理が簡単にできるのだとか。例えばかぼちゃのピュレをベース素材とした料理だけでも、リゾットやニョッキ、ポタージュにプリンと非常にバリエーション豊か。肉やえびも、一度ペースト状にしてから食材の「形」に成形して調理することで、介護食とは思えない、見た目にもおいしそうな食事を作ることができるのだ。

 本書の25ページにある「お箸でスッと切れる 鶏カツ煮」や、31ページの「えび風味いっぱい ふわふわ♡えびフライ」は、「えっ? これがペースト!?」と驚きを隠せないクオリティの高さだ。これなら食べることが億劫にならず、食べる幸せを感じることができそうだ。もちろん、このほかのどの料理も、食べる人のことを考えた工夫やワザが詰まったものばかり。

「お箸でスッと切れる 鶏カツ煮」

「えび風味いっぱい ふわふわ♡えびフライ」

 また、ただレシピが載せてあるだけではなく、後半部分には介護食を作る際の注意点やコツ、“噛む力がなくなる”というのがどういうことなのかなどが、実体験を元にコラムとして分かりやすく解説されている。飲み込む力が衰えると、バラバラ、サラサラ、パサパサした食べ物やペタペタ張りつくもの、じゅわっと汁が出てくるようなものは食べにくくなる。クリコさんは、これらは誤嚥を招きやすいため気をつけてほしい、と注意を促している。これを解消し誤嚥を防ぐには、口の中でまとまりやすくなる「とろみづけ」が効果的とのこと。

 もし自分が老化や病気で噛めなくなったら、自分の家族や親しい友人がそうなったら、と考えると、本書に書かれていることは決して他人事ではない。今困っている人に手に取って読んでほしいのはもちろんだが、“もしも”の時に困らないために、食べる楽しみを失わないために、今は関係ないと思っても、こういった本があるということをぜひ覚えておいてほしい。

文=きこなび(月乃雫)