あなたは、自分が選んだ相手を“運命の人”だと信じていますか? 舞城王太郎が描く「家族愛」の物語

文芸・カルチャー

公開日:2019/2/26

『されど私の可愛い檸檬』(舞城王太郎/講談社)

 思春期のピュアな恋愛感情を描いた作品集『私はあなたの瞳の林檎』(舞城王太郎/講談社)に続き、『されど私の可愛い檸檬』(舞城王太郎/講談社)が刊行された。この2冊に共通するテーマは、大切な人への愛。前作『林檎』が“恋篇”だったのに対し、今作『檸檬』は、“家族篇”である。親戚、夫婦、姉妹…否応なく人生の長い時間を共有する“家族”は、それでも究極的には他人だ。だから、そこにはさまざまなすれ違いが生まれてしまう。

 あなたは、自分が付き合っている、もしくは結婚している相手を“運命の人”だと信じているだろうか。はじめの中編「トロフィーワイフ」は、ある出来事をきっかけに離婚の危機を迎えてしまう夫婦を、妻の妹の目線から描いた作品だ。夫の友樹は、ある学者の研究をヒントに、“愛の真実”に気がつく。私たちは、自分の選んだ、取り替えのきかないものを肯定的に捉える傾向がある。だからこそ、自分の選んだ相手を愛し、幸福な生活を送れるのではないか…。友樹は、そう考えることで、美人で気立ての良い妻・棚子からの愛情を確信した。だが、棚子にその話を伝えたところ、なんと彼女は家を飛び出してしまう。その行き先は、福井にある友人の実家で…。

 私たちは、世界中のすべての人と知り合えるわけではない。今のパートナーとは別の人を選んだとしても、それはそれで幸せに暮らしたのかもしれない。それでも、それは“だれでも良かった”というわけではない――。妹の扉子は、棚子を連れ戻すため、ひとりで福井へと向かう。他人の家で生活を始めている姉を、妹はどう説得するのだろうか。扉子がたどり着く結論は、私たちの抱くさまざま愛を、しなやかに肯定してくれた。

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 本書は、その他2作品を収録している。「ドナドナ不要論」は、妻のある告白で揺らぐ家族を描きながら、“悲しい物語”が持つ力を再確認する。表題作「されど私の可愛い檸檬」のテーマは、自分の人生を選択することのむずかしさ。やりたいこと、得意なこと、突然降ってきたチャンス…主人公は、いかにして自分の道を決めるのか。3作品の主人公たちがぶつかる問題は、まさに私たちの人生の一部を切り取ったものだった。

文=中川 凌