こんな可愛くて臆病すぎる探偵見たことない!? ハリネズミとパン屋さんのほのぼのライトミステリー!

文芸・カルチャー

公開日:2019/3/2

『なるほどフォカッチャ ハリネズミと謎解きたがりなパン屋さん』(鳩見すた/KADOKAWA)

 世の中にはありとあらゆる探偵がいるが、こんなにも可愛くこんなにも臆病な探偵は他にはいないだろう。鳩見すた氏著『なるほどフォカッチャ ハリネズミと謎解きたがりなパン屋さん』(KADOKAWA)は、ハリネズミと可愛いパン屋さんが日常の謎に挑むほのぼのライトミステリー。鳩見氏といえば『ひとつ海のパラスアテナ』で電撃小説大賞を受賞し、「アリクイのいんぼう」シリーズで知られる作家。他の作品と同様、『なるほどフォカッチャ』も、読む人の心をあたたかくする物語であるから、元々の鳩見氏のファンも、まだ作品を読んだことのない人も、ほんわかした優しい気分に浸れるに違いない。

 物語は、就活中の青年・蜜柑崎を中心にして進む。就活挫折中の彼は、電車の中で、不可思議な行動をとる美女と出会った。素敵な笑顔を見せた彼女の謎の行動が気になり、つい後をつけた彼は、彼女が近所のパン屋「ブーランジェリーMUGI」の娘であること、そして、「高津 麦」という名前であることを知る。その日からというもの、蜜柑崎は、毎日、麦目当てでパン屋に通いつめる。

 だが、彼女は出会った時のような笑顔は一向に見せてはくれない。レジにいるというのに、無表情。だが、謎と出くわした時だけ、彼女は表情を明るくさせるのだ。麦と、彼女のペットのハリネズミ「フォカッチャ」とともに、街にあふれる謎を解くことになる蜜柑崎。毎日せっせと謎を探しお店を訪ねる蜜柑崎の思いが麦へと届く日はくるのか。パンとコーヒーとハリネズミとともに、今日も彼らのおいしい謎解きが始まる。

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「人の秘密はそっとしておかなければならないんです。膝の上に乗ったハリネズミみたいに」

 麦は本当に不思議な女の子だ。謎を愛しながらも、人と近づきすぎることを極度に恐れている。他人の秘密に近づくことは、麦にとって御法度。人と近づこうとすればするほど、彼女は警戒心を強めていく。それは、彼女の心がとても臆病だから。彼女は、人を傷つけること、そして、それによって自分が傷つくことを何よりも恐れている。臆病な心を隠すように、周囲を威嚇する姿は、まるで、ハリネズミのよう。そんな子に一目惚れしてしまったのだから、蜜柑崎は振り回されてばかりだ。

 正直、麦は名探偵と呼べるほど、謎解きが得意なわけではない。だが、謎を知ると、いてもたってもいられず、真剣に謎解きに試みようとする。その姿はとっても愛らしい。そんな彼女に蜜柑崎はどんどん惚れ込んでいく。なぜ彼女は謎に興味を持ちながらも、他の人と深く関わることを極端に恐れるのだろう。蜜柑崎は彼女自身に隠された謎を解き、その本心に近づくことはできるのだろうか。

「推理で真相を知ったとして、麦さんは『答えあわせ』をしなくていいの?『察するばかりが正解じゃない』って、そういう意味だよ」

 謎解きを通じて、仲を深める2人がなんと微笑ましいことか。そして、ハリネズミの「フォカッチャ」がとてつもなく可愛く、登場人物の誰よりも名探偵っぷりを発揮する。読めば読むほど、癒される。ほのぼのとしたやりとりに心がほんわかするこのライトミステリーをあなたも手にとってみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ