低予算ながら全TV番組中3位! 『家、ついて行ってイイですか?』は何がすごいのか

ビジネス

公開日:2019/2/28

『1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』(高橋弘樹/ダイヤモンド社)

 テレビ東京の人気番組『家、ついて行ってイイですか?』をご存じだろうか。深夜、終電を逃してしまった人に声をかけ、タクシー代を払う代わりに「家、ついて行ってイイですか?」と聞く。そして、OKならそのまま部屋に行き、彼らの人生を深掘りりする…。本当にこれだけの番組なのだが、なんと“ある指標”では全テレビ番組中第3位を記録しているという。

 それは、“視聴質”――わかりやすくいうと「どれだけの多くの人が、意識を集中して番組を観てくれたか」を表す指標だ。ちなみに、1位は『西郷どん』、2位は『世界の果てまでイッテQ!』(2018年1~3月のランキング)。素人の家について行くだけの番組が、大河ドラマや国民的バラエティ番組に次ぐほど視聴者の心を引き付けている。

『1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』(ダイヤモンド社)の著者は、その『家つい』を立ち上げたテレビ東京のプロデューサー・高橋弘樹氏だ。彼は、本書で“1秒”で視聴者の心を掴む技術を、なんと“500ページ以上”かけて語る。手軽に読めるビジネス書が数多く出版される中で、1つのテーマにこれだけの熱量を込める姿勢にまず拍手を送りたい。具体的な内容は、コンテンツ作りにおける企画、ストーリー、伝える技術…これらを『家つい』など実際の番組企画を例にとりながら解説していく。

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■『家つい』はテレビ番組の常識を根底から覆した

 ドキュメンタリー番組といえば、『情熱大陸』などのように、長期間取材してこそ質の高いものが作れるイメージがある。だが、『家つい』は、その真逆を行く“即興ドキュメンタリー”だ。取材にかけられる時間は、終電後に「OK」をもらってからの平均2~3時間。『家つい』がおもしろい理由は、その“即興”がありのままの人の姿を映し出すからだ。

 たとえば、誰かの家を取材するとき、日付を決めてアポを取ると、全員その日までにキレイに家を片付け、話す内容を準備してしまうだろう。だが、「いますぐ」ついて行けば、彼らは“よそ行き”の仮面をかぶらない。生活感あふれる素のままの家で、ほろ酔いの素人から話を聞く…。そんなシチュエーションだからこそ、市井の人々のリアルな生活を表現できる。『家つい』は、こうしてドキュメンタリー番組の常識を覆したのだ。

 本書は、あらゆるコンテンツ作りに従事する人間に向けて書かれた本である。テレビの世界では“当たり前”だというテクニックを、動画、ネット記事、プレゼン、広告などの“テレビ以外”に応用するとどうなるのか。それはきっと、周りのライバルたちがまだ持っていない、あなたの強力な武器になるだろう。

文=中川凌