「女性専用風俗」はなぜ増えた? 解放される、身近な男たちで満足できない欲望

社会

公開日:2019/3/10

『女性専用:快感と癒しを「風俗」で買う女たち』(ハラショー/徳間書店)

 ここ数年、めざましい成長を遂げているサービス業が「女性専用風俗」である。そのほとんどの店舗では男性従業員が「セラピスト」を名乗り、女性客にマッサージを施していく。やがて彼らは、女性側の要求に応えながら性的絶頂に導くのだ。男性向け風俗店でいうところの「性感マッサージ」に近いが、その実態は少々異なっている。

『女性専用:快感と癒しを「風俗」で買う女たち』(ハラショー/徳間書店)は、女性専用風俗の経営者、従業員、そして顧客への取材レポートである。どうして女性たちは知らない男性を求めるのか、恋人や夫ではなぜ満たされないのか、本書にはその答えがある。

 本書によれば、現在、日本全国で女性専用風俗の数は300軒近くにもなっている。個人経営の店舗も含めれば、もっと膨れ上がるだろう。ここ3年で女性専用風俗の紹介サイトへの月間アクセス数も7倍に増えた。著者は女性専用風俗が急成長した原因を3つ挙げる。「社会環境の変化」「店の健全化」「女性の意識変革」である。中でも、働き方改革によって正社員の副業が促進された「社会環境の変化」は、男性セラピストの増加をあおった。

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 とはいえ、男性なら誰でもセラピストとして採用されるわけではない。本書に登場する経営者や人気セラピストは、性欲のためだけにセラピストを志望する男性たちを一刀両断する。人気店ともなれば、100人応募してきて1人と面接するかどうか。選考基準は、容姿はもちろん、礼儀作法ややる気、コミュニケーション能力など、非常に細かく厳しい。少数精鋭のセラピストたちが日々、技術を磨ける環境が守られており、だからこそ女性たちはのめりこんでいくのである。

 セラピストたちを指名する女性客の事情はさまざまだ。夫との性交渉がなくなった人妻や、初体験の練習をしたい処女、娘から薦められた75歳のお客もいたという。また、セラピストに求めるレベルも女性客によって異なる。女性専用風俗では本番が厳禁だが、それでも期待しているお客がいないわけではない。一方で、通常の施術すら必要なく一晩中添い寝してほしいだけの女性もいる。

 ただし、自ら男性セラピストを攻めたがる女性が少ないのは、男性向け風俗との大きな違いだろう。女性客は「どうしてお金を払っているのに相手を気持ちよくさせなければいけないのか」という発想が働くのだという。こういう現実的な思考は女性ならではだ。

 そして、著者は女性専用風俗のプレイ内容を確かめるため、「カップルコース」を選んで突撃取材を敢行する。知人の女性や常連客を誘い、彼女たちがセラピストたちから施術を受ける様子をできる範囲で描写していくのである。その詳細は本書でご確認いただきたいのだが、言えるのは「間違いなくプロフェッショナルの技」だったということだ。女性の感想は

初対面なのに、私の体を10回くらい扱ったことがあるみたいだった

 というのだから、すさまじい。

 そして、お客たちの幸せそうなコメントが印象的である。男性の風俗客が抱きがちな罪悪感や劣等感とは、彼女たちは無縁だ。中には、セラピストにひたすら感謝している女性もいた。女性専用風俗とは、恋愛感情や夫婦の絆だけでは味わえない、新たな種類の快楽を提供してくれる場所である。そして、女性専用風俗が拡大している背景には、これまで抑圧されてきた女性の欲望が解放されつつあることも忘れてはならない。浮気でも売春でもなく、より手軽な方法で女性たちは心身の満足を得られるようになってきた。本書は風俗産業の最先端から、社会の多様性を示しているのだ。

文=石塚就一