漫画家・魔夜峰央の描いてきた少年愛とギャグのルーツは!? 話題沸騰『翔んで埼玉』舞台裏ほか創作秘話に迫る!

エンタメ

2019/3/6

『翔ばして!埼玉 魔夜峰央パーフェクトお仕事ブック』(魔夜峰央/宝島社)

 現在絶賛公開中の映画『翔んで埼玉』。二階堂ふみやGACKTの怪演が話題を集めているが、原作は魔夜峰央による漫画作品である。魔夜峰央は『パタリロ!』などの作品でも知られる有名作家で、突拍子もないギャグを展開しつつ耽美な少年愛も描き続け、2018年に画業45年を迎えた。それを記念して発行された『翔ばして!埼玉 魔夜峰央パーフェクトお仕事ブック』(魔夜峰央/宝島社)は、その創作の秘密などに深く迫っている。

 本書は1973年デビューから2019年までの作品を年表とリスト化し、巻頭では著者自身の解説付きの原画グラビアを掲載。これだけでもじゅうぶん魔夜作品の深みに触れられると思う。また、2016年から「このマンガがすごい!WEB」で連載された、エッセイマンガ「翔ばして!埼玉」が書き下ろしも含め136ページにわたり収録されているのもうれしいところだ。

 小生が個人的に惹かれるのは巻頭の原画グラビアパート。『パタリロ!』や『ラシャーヌ!』などのキャラクターたちが描かれた耽美なイラストには、誰もが心奪われるだろう。カラーイラストも柔らかな色づかいで美しいが、以前から小生はモノクロのブラックこそが魔夜峰央による作画の魅力だと考えてきた。収録された原画を見れば、黒い背景が多いことを再認識させられる。

“ブラック”へのこだわりは魔夜自身の解説でも語られている。

モノクロが好きです。私の絵はモノクロで完結していると思っているので、必要がなければカラーは描きません。ベタを単なる黒とはとらえてない。深い闇であるとか血であるとか、意味を持たせながら塗っているような気がします

 1982年から放映されたアニメ版「パタリロ!」でも黒い背景が印象的に使われており、アニメの美術スタッフも見事に再現していたのだと今更ながらに思う。そういえば「少年愛」──今でいう「BL」を初めて知ったのも、その時だ。当時まだ小学生だった身にはいささか刺激が強かった感もあり、深い印象を残している。魔夜は「自分の作品はBLとは違う」と語る一方で、少女漫画でのBLの先駆けは「萩尾望都」と「竹宮惠子」で、魔夜はその影響を受けたのだという。

私が萩尾・竹宮両氏の作品から感じた魅力は、少年たちのそうした関係が「心地良いから」という理由のみで選択されていて、彼らが自分だけの価値観で自由に生きていることにあります。ある意味危険ではありますが、だからこそものすごく美しい。よく切れる刃物のように恐ろしいけどきれいで、その危うさにひかれるのです

 作画における、ブラックの使い方と「少年愛」を描く意味、これらを知れただけでも満足してしまいそうだったが、もちろん話題の『翔んで埼玉』に関してもしっかり触れられている。導入部こそ魔夜の得意とする、懐かしテレビネタが語られるが、徐々に創作の秘密が語られていくのだ。

小さなタネを見つけてきて、それに自分の知識や経験といった養分を与えて大きなスイカに育てるのが面白いストーリー、面白いマンガをつくるとゆー作業なのだと私は考えています

『パタリロ!』などのぶっ飛んだ作品たちも、こうやって地道にタネを育て上げてきたのかと思うと、マンガ家の労力というものは並大抵ではないと感じる。そしてそれを45年も積み重ねてきた魔夜峰央には、改めて敬意を払いたい。

 それにしても、実写版『翔んで埼玉』が劇場公開され、さらに諸事情で公開が延期されていた実写版『パタリロ!』も、2019年中の公開が告知されている。この「魔夜峰央イヤー」に、本書は必携だといっても過言ではないだろう。

文=犬山しんのすけ