ドラッグ、銃器……違法商品が平気で取引されていた「闇のAmazon」――知られざるインターネットの暗部“ダークウェブ”

社会

2019/3/8

『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』(木澤佐登志/イースト・プレス)

「ダークウェブ」という言葉を聞いたことがある人はどれほどいるだろう? その響きから、なんとなく「恐ろしい内容が載っているWebサイト」との印象を受けるのではないか。しかし、それは正確な意味といえない。ダークウェブとは、アクセスに専用ブラウザを必要とする、インターネット内の領域を指す言葉だ。通常の検索エンジンではヒットしないうえ、アクセス履歴も残らない。その結果、ダークウェブは独自の発展を遂げ、ときには世界的に重大な事件とも関わりを持つまでに至った。

『ダークウェブ・アンダーグラウンド 社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』(木澤佐登志/イースト・プレス)は、法律さえも手の届かないダークウェブについてのノンフィクションである。これは単なるアンダーグラウンドの物語ではない。ともすれば、我々の生活とも地続きにある現実なのだ。

 ダークウェブに関する事件でもっとも有名なのは「シルクロード」だろう。2011年1月、Tor(トーア)秘匿サービス上に誕生したシルクロードは、法に触れる商品が平気で取引される「闇のAmazon」だった。ドラッグや発禁本のほか、銃器すらも売買され、支払いはすべてビットコイン。しかも、本家Amazonと同じく、これらの商品にはレビュー欄まで設けてある。大麻について書かれたレビューの一部を引用してみよう。

最高の商品だ。何より香りが素晴らしい!!

(前略)迅速な発送。用心深い梱包。このベンダーは間違いなくおすすめ

 当時、運営者ドレッド・パイレート・ロバート(通称:DPR)は誠実で一貫性のあるブラックマーケットを目指したとの発言を残している。DPRの思想はネットユーザーの評判を呼び、存在は神格化されていく。

 しかし、シルクロードとDPRの繁栄も長くは続かなかった。本書では、シルクロードが迎えたお粗末な終焉が描かれている。詳細は実際に読んでほしいものの、哲学者然としたカリスマのように思われていたDPRは、拙い帳尻合わせを繰り返して自滅した小者だったのだ。シルクロードは2013年10月に摘発され、利用ができなくなる。画期的なマーケットの、あまりにも呆気ない最期だった。

 そのほか、ダークウェブについては数々の都市伝説も囁かれている。「スナッフフィルム(惨殺現場の記録映像)」や「殺人請負サイト」などはその最たるものだろう。しかし、都市伝説のような本当の話もある。たとえば、「児童ポルノ」問題は後を絶たない。2011年、オーストラリア人のピーター・スカリーはフィリピンに渡り、ダークウェブ上で児童を性的虐待する様子を配信してみせた。動画の中には1万円の価値がついたものもあったという。

 また、「ペドエンパイア」という、児童ポルノ愛好家向けのコミュニティも悪名高い。特に、ペドエンパイア内にあった「Hurt2theCore(H2TC)」は、ハードコア(過激な暴力行為を含む児童ポルノ)専門の動画配信を行っていたことで悪名を轟かせた。しかし、ペドエンパイアは2014年6月に閉鎖され、運営者Luxも直後に逮捕される。その後の取り調べで、Luxはコミュニティを開設したとき、わずか18歳だったと判明した。

 大前提として、DPRやLuxを偉人のように崇めることは間違っていると思う。しかし、現行のインターネットに窮屈さを覚えている人々が、反動的にダークウェブへとのめりこんでいくのもまた事実なのだろう。そして、アメリカでは良識派の振る舞いに反感を抱く「オルタナ右翼」が、ダークウェブへ集まるようになった。彼らの団結は、ドナルド・トランプの大統領当選に少なからず貢献した。かつて、インターネットを見ない人が「情報弱者」と揶揄される時代があったが、いまやWebの表層を眺めているだけでも真の情報はつかめない。ダークウェブとは世界の裏側ではなく、世界の一部なのだから。

文=石塚就一