『蟲師』の作者がおくる“現代もの風景まんが”――ちょっとフシギで猫がかわいい『猫が西向きゃ』

マンガ

更新日:2019/4/4

『猫が西向きゃ』(漆原友紀/講談社)

 最寄り駅までの道のり、通学路、自宅の窓から見える町並み。そんな見慣れた風景に、突如変化が訪れたら、とても不安になりますよね。人気漫画『蟲師』の作者・漆原友紀先生の最新作『猫が西向きゃ』(講談社)は、身近な風景や空間にバグが生じる、不思議な現象をめぐるファンタジー作品です。作中、その自然現象は「フロー」と呼ばれ、街のあちこちに発生します。

「【フロー】(名)空間の浮動化のこと。すべての物質は、ごく細かに絶えず不安定に動いているため、ときにバランスを崩して形を変えることがある。その現象の名称」

 このフローが発生すると、真夏に桜が咲いたり、包丁や看板など街中の“角”が丸くなったりと、絶妙に困った状況になってしまいます。そんなフロー問題を解決に導く(?)のが、街のフロー業者・広田フロー株式会社のお仕事。

 自然発生するものや「人の思念がフローと共振する」ことで生じてしまうケースもあり、フローの種類はさまざま。主要登場人物のひとり・ちまちゃんのように、仕事帰りに遭遇したフローのせいで35歳のOLが12歳の少女の見た目になってしまった、という事例もあるようです。そんな彼女が、役所の紹介でアルバイト希望者として広田フローを訪れたところから物語がスタートします。

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 広田フローのメンバーは、しゃちょう(猫)と青年・ヒロタ、アルバイトとして採用されたちまちゃんの1匹とふたり。フロー発生の通報を受けた彼らは、現場に赴きフロー発生の原因を突き止めたり、フローが消える日を予測して街の人を安心させたりと、適度に忙しい日々を送っています。一方で、実害がないフローは自然に消えるまでそのままにしておくなど“自然現象との共存”も、テーマのひとつ。

 フローを取り巻く人々の心理描写も見どころですが、なかでも注目なのがヒロタの相棒・しゃちょうです。見た目は、口元に黒ぶちを携えた、まごうことなき白猫ちゃんなのですが「猫はフローが好き」という特性を活かして、フローの発生源や関わった人を見つけ出すなど、とても働き者。

 フローの発生源に近づくにつれしゃちょうの「しっぽがピンと立つ」のですが、そのときの後ろ姿は、なんとも言えないキュートさ…! おしりの穴と、タマを丸出しで、とっとっとっと先頭を歩く姿に、頼もしさを感じます。猫が体を舐めて毛づくろいをする「グルーミング」をする仕草や、何事にも動じないふてぶてしい表情も、すべてが愛らしい! ほかにも「チョビちゃん」「だいふく」「ブランカ」などなど、さまざまな異名を取り、街の人や猫からの信頼も厚いようです。猫好き読者のハートを鷲掴みにしてくる、ニクい猫なのです。

 不思議な日常と、かわいい猫…何より、漆原ワールドに浸りたい人におすすめの1冊です。

文=真島加代(清談社)