ダイアモンド☆ユカイが赤裸々に語る、男性不妊の現実と過酷な治療体験!

出産・子育て

公開日:2019/3/10

『タネナシ。』(ダイアモンド☆ユカイ/講談社)

 なかなか子どもができないことに悩む夫婦は少なくない。だが、「不妊」というと、いまだに女性の問題として考えられがちだ。しかし、実際には男性側に不妊の原因があることも多く、男性の100人に1人は男性不妊であるという。そのような不妊とその治療について、みずからの体験を赤裸々に語ったのが『タネナシ。』(ダイアモンド☆ユカイ/講談社)である。いうまでもないが、著者は近年はタレントとしても活躍している、ロックバンドRED WARRIORSのボーカルだ。

■数々の女性と浮名を流してきた自分が、男性不妊!?

 2度目の結婚を機に子どもをつくることを真剣に考えるようになった著者は、なかなか妊娠の気配がないので夫婦で病院に行ってみることに。この時点では大半の男性と同じように、奥さんの側に原因があるものだと考え、付き添い程度の気分であったという。ところが、奥さんにはなんの問題もなく、「念のために旦那さんのほうも診てみましょう」と言われ、検査したところ診断結果はなんと「精子ゼロ」。これには愕然としたと著者は記している。

 それもそのはず。なにしろ若いころは「オンリー・ワンナイト・ファッカー」とうそぶき、毎晩とっかえひっかえ違う女性と寝て、妊娠をネタに脅されたこともあるというのだから、「まさか!」と思うのも当然だろう。だが、医者の宣告は男性不妊というものだった。

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 精子の有無を検査するときは自慰行為によって採取するのだが、そのためにアダルトビデオやエロ本が完備されている専用のメンズルームが用意されているという。これなどは、体験者にしかわからない話だ。そして、1度目の検査で精子が検出されず、ワラをもつかむつもりでおこなった2度目の検査の際に著者が抱いた、

「精液採取——―単純なマスターベーションが崇高かつ神聖な宗教儀式のように思えてくる。魂のオナニー。こみ上げる不安を抑えて、右手を動かす。せり上がる希望。お願いだから、ひとつでもいいから、精子があってくれ」

という思いは、おかしくも切ない。しかし、結果は冷酷にも、またしても「精子ゼロ」。

■肉体的にも、精神的にも、そして経済的にも負担の大きい不妊治療のリアル

 男性不妊の原因は主に、精巣で精子がうまくつくられない「造精機能障害」、精子はつくられているが輸送路に問題のある「精路通過障害」、勃起不全や射精障害などの「性機能障害」の3つだ。

「性機能障害」ではない著者は、子どもをつくれる可能性がある「精路通過障害」に賭けて、精巣生体検査を受ける。だが、それは本書の表現によれば、「玉袋をメスで開いて、金玉に注射針を直接ぶっすり刺して組織をほじくりだす」ような過酷なものだった。

 その苦痛に耐え、なんとか精子自体は存在することがわかった著者は、今度は体外受精による妊娠にチャレンジする。しかし、それもまた夫婦にとって心身ともに負担の大きいものだった。さらに治療費のほとんどが自己負担になるため、金銭的にも負担の大きなものであった。ケースバイケースであろうが、著者の体験によれば、精子を取り出すのに15万円、精子の凍結保存代に25万円、体外受精が1回目が40万円、凍結していた受精卵を使った2回目が20万円かかったという。

 このような数々のハードルを乗り越え、最終的にダイアモンド☆ユカイ夫婦は子どもを授かることに成功する。著者自身は「子供がいる人生といない人生。それは、どちらが幸福で、どちらが不幸か、と比べられるものではない」と書いており、その通りだろう。ただ、不妊で悩んでいる夫婦の、とくに男性は、ぜひ一度この本を読んでみることをおすすめする。きっと、さまざまな選択肢を考える上での貴重な情報が得られるはずだ。

 …最後に、本書の内容とはまったく関係ないが、RED WARRIORSの『ルシアン・ヒルの上で』は名曲である。
(編集部注:「ダイアモンド」と「ユカイ」の間にある☆は、正確には六芒星です)

文=奈落一騎/バーネット