「子どもを1時間半、叱り続けたのが快感でした」――体罰やしつけの問題点とは。しつけをしない育児とは?

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更新日:2019/3/14

『マンガでわかる 今日からしつけをやめてみた』(柴田愛子:監修、あらいぴろよ:マンガ/主婦の友社)

『マンガでわかる 今日からしつけをやめてみた』(柴田愛子:監修、あらいぴろよ:マンガ/主婦の友社)は、小学校に上がるまでの幼児期にありがちな悩みをマンガでわかりやすく紹介しながら、それらを“しつけ”をせずに解消する育児法を提案。監修は、子どもの心に寄り添うことをモットーに保育を行う「りんごの木子どもクラブ」の代表であり、40年以上も子どもたちにかかわってきた柴田愛子さん。育児に悩む親の気持ちを深く理解した上で、時に優しく、時に厳しく、語りかけてくれる心強い育児本です。

 心の痛む児童虐待のニュースを目にすることが多い昨今、本書でも、体罰によるしつけを行う例を挙げた箇所が特に心に残りました。

●幼児が「暴力はいけない」と理解し始めるのは4~5歳

『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)
『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)

『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)
『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)

 気になったおもちゃを貸してくれなかった友だちに手を出してしまった息子。「やめなさい」といくら口で伝えてもわかってくれないので、自分も手を上げてしまった…。

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 このマンガで紹介されているのは、4歳の男の子を持つママが抱える悩みです。言葉では伝わらないから、痛みを与えてわからせようとした。しかし、いくら叩いても子どもが暴力をやめることはありませんでした。

「人の痛みをわからせるには、本人にも痛い思いをさせなくてはいけない」という理屈は時々目にしますが、これはまったく効果がないどころか百害あって一利なし、と柴田さんは語ります。叱られ、批判され、将来が心配だと厳しくされればされるほど、悪い子になるというのです。「ごめんなさい」と口では言っても納得しているわけではない。やがて力関係が逆転したとき、押さえつけられていた感情が爆発することも珍しくありません。

 幼児期の暴力は大人がイメージする暴力とは少し違います。2~3歳までは自分の思いを言葉で説明できないため、力ずくの行動に訴える子もいるのです。そういう「体であいさつ」するような子のコミュニケーションが変わってくるのは早くて4歳ごろ。5歳ぐらいになると乱暴な子は友だちに敬遠され、本人も周囲の空気に気づいて行動が変わり始めるといいます。

●「子どもがふるう暴力」を速効でやめさせる方法はありません

 では、そんな「暴力的な」子どもを持ってしまった親はどうすればいいのか。冷たい視線を向けてくる大人との接触を極力さけること。そして、「このモヤモヤした気持ちはどういうことなのかわからない」と感じている子どもの通訳になってあげることだと、この本は提案します。友だちに手を出した子を怒鳴りつけるのではなく、ギューッと抱きしめて「あのおもちゃが使いたかったんだよね。でも貸してくれないからくやしくてぶっちゃったんだね」と。

 暴力をやめさせたい!と親は思うものですが、残念ながら一朝一夕には変わりません。時期が来るまで、親は裁判官ではなく子どもの通訳になる。そういう日々を重ねていくことで、子どもは少しずつ自分の気持ちを理解し、周囲との距離や人とのかかわり方を学んでいくのです。

 次に挙げる例にはまた別の問題があります。

●暴力が快感だと自覚したら誰かに相談を。親の心のケアもとても大事

『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)
『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)

『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)
『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)

 上記のマンガでは、しつけをしなくてもいい環境を作り出す方法が紹介されています。子どもが言うことを聞いてくれない時は、「かっこいい」とおだてたり、「○○ができたらアイスが待ってるよ」と気を引いたりと、しつけではなく大人の知恵を存分に使うことが効果的。柴田さんは、「自我が育つ時期、親はある程度子どもに譲歩し、本人の意思を尊重してやることも大切です。正論をぶつけて問答無用で従わせるのではなく、うまく子どもを誘導したり気持ちをそらしたりしてあげてほしい。子どもと同じレベルで張り合う必要なんてないんですよ」と言います。しつけの名の元に子どもを従わせようとすることは、ともすれば、虐待につながる可能性もあるのです。

あるお母さんが言いました。「私、子どもを1時間半、叱り続けたんです。子どもはその間ずっと、身動きもせずに立っていました。快感でした」。彼女はマズイと気づいて、私に相談してくれました。それは、健全ですよ。

 これは、あるお母さんが柴田さんのもとに相談にきたときの話。1時間半も叱り続けることは、言葉の暴力と言えるでしょう。そのことに快感を感じている。これはどういう状況でしょうか。

 子どもは親にとって絶対的な弱者。自分がいなければ生きていけないし、どんなに醜い姿を見せても嫌われない、鬼のような顔を見せられる唯一の存在です。人間には他者を支配したいという感情があり、それが子どもに向かってしまったとき、暴力が「快感」になりえる。本書ではそのように解釈しています。

 もし子どもに暴力をふるってしまったら、そのときに自分がどう感じたのかを振り返ってみましょう。「なんだか気持ちいい」「すっきりする」と感じていたら危険信号。それが異常な状態だと自覚することが最初の一歩です。自分の手に負えないなら、誰かに相談を。上記のお母さんが柴田さんに告白したように、世の中には育児の相談ができる公共施設などがいくつもあります。

 育児でイライラが募ったときは、親の心のケアも大事だといいます。ガシャンとお皿を割ってもいいし、誰かに育児を任せて一息ついてもOK。イライラを子どもに向けてひっぱたいてしまうぐらいなら、お皿に当たったほうがずっとましです。

●しつけは子どもを否定することにも。否定から自分を肯定する感性は生まれない

『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)
『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)

『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)
『今日からしつけをやめてみた』より(マンガ:あらいぴろよ)

 このマンガでは、牛乳をこぼして隣のお兄さんにかけてしまった2歳の子どもを「悪いことをした」としかり、子どもを押さえ付けて「ごめんなさい」と言わせています。子どもはその場では「ごめんなさい」といっていますが、突然怒られたことにびっくりしたのか、泣き出してしまいました。

 しつけの目的とは何でしょうか。本書では、子どもを自分の思うように動かすために親が正義をふりかざしている行為かもしれない、と指摘しています。ともすれば、子どものやりたいことを否定して別の価値観を押しつけることにもなり、子どもの心は置き去りにされたまま。おさえつけられた心が爆発すれば、非行にもつながるとか。「否定から自分を肯定する感性は生まれない」という言葉が深く印象に残りました。

 しつけには「周りに迷惑をかけたくない」という目的もおおいにあるもの。しかし、この考え方も見直すべきだと本書では伝えています。そもそも子どもとは、騒ぐし、汚れるし、危なっかしいこともたくさんする。それなのに、少子化の影響もあって、現代は子どもが大人のルールにあわせなければならない場所が多すぎる、と柴田さんは嘆きます。子どもを心優しく誠実で、周囲に配慮できるまっとうな大人に育てるには、幼児期を子どもらしく過ごすことが大事。そのことを本書は教えてくれます。

文=吉田有希