<ネタバレ厳禁>華麗なる仕掛けが満載! どんでん返しに満ちた警察小説

文芸・カルチャー

2019/3/16

『W県警の悲劇』(葉真中顕/徳間書店)

 ドラマ「3年A組 ー今から皆さんは、人質ですー」(日本テレビ系)が注目を浴びた理由のひとつは、どんでん返しに次ぐどんでん返しが用意されていたことだろう。人はみな「真実を見抜きたい」と同時に「騙される」ことを望んでいる。だが、だからといって、騙しが先行して無意味に物語をひっくり返されたり、手口がパターン化したりするのではつまらない。新鮮な驚きと、やられた! という悔しさ。真実を知ったときの納得感。そのすべてが揃っていたからこそドラマもヒットしたと思われるが、同じように、読者を華麗に騙してくれる小説がある。葉真中顕氏の『W県警の悲劇』(徳間書店)だ。ただしこちらは3年A組と違って、読者の正義をも裏切りかねないので注意してほしい。

 本作はタイトルどおり、W県警を舞台にした警察小説。どんでん返しが読みどころだけあってなかなか作品紹介がしづらいのだが、「警察官の鑑」と慕われる父が謎の突然死をしたことをきっかけに、娘であり警察官でもある熊倉清が警察の暗部に触れる第1話「洞の奥」から始まり、女性警察官を主人公にした6編の短編が収録されている。

 どのエピソードも「騙されないぞ!」と意気込んで読み進めたわりにあっさりと騙され、ラストで毎回「えーっ!」と声を漏らすはめになった。とくに第2話「交換日記」は、注意深い読者なら見破ることができるかもしれないが、人は(というか私が)いかに全体しか見ていないのかを突きつけられる結末となった。悔しい。だがこの2話があったからこそがぜん先が楽しみになって、ラストまで一気に読み進めてしまった。

 同じW県警とはいえ、基本的に各話の事件は独立している。登場人物が交錯することもほとんどない。第1話で突然死の真相を探る、松永菜穂子警視を除いては。男尊女卑の文化がいまだ色濃く残る警察社会で、女性の地位向上のため邁進し続ける彼女の志は立派だ。彼女の心は正義に満ち溢れている。だが…正義とはいったい、なんだろう?

 警察官たるもの市民の味方でいなければならず、犯罪を防ぎ、平和を守らなければいけない。だがたとえば、ありきたりの疑問かもしれないが、法でとりしまれない悪を食い止めるため法に触れるのと、放置してさらなる犯罪を生み出すのと、いったいどちらが「正義」なのだろう。亡くなった清の父・熊倉警部が常日頃言っていた「一人の人間として、常に正しくありたいんだよ」という言葉は、本書を読みとく鍵となる。ふたたび菜穂子がメインとなる第6話「消えた少女」で彼女が落ちた、正しさの穴。それは、第1話で熊倉警部が抱えていた秘密とつながり「人間として正しくあること」のあやうさを読者に突きつける。

 とにかく最初から最後まで驚きっぱなしだった。真実を知ったあとにもう一度読むと、著者の周到な仕掛けにふたたび驚かされることうけあいの、華麗なる騙しの1冊である。

文=立花もも