「何者にもなれなかった」夢破れた大人必読! アラサー女子の青春の残滓に迫るビターな物語

文芸・カルチャー

2019/3/17

『わたしたち、何者にもなれなかった』(瀬那和章/KADOKAWA)

「あの頃は良かった」と過去を思い出す大人にだけにはなりたくなかった。だが、夢破れ、何事も上手くいかない毎日の中で、思い出されるのは、昔のことばかり。がむしゃらに走り続けた青春の日々は、“何者にもなれなかった”大人たちにとって、生きるよすがだ。そんな風に、過去にすがってしか生きていくすべを持たないという大人は、決して少なくないように思う。

 どうしても忘れられない過去があり、前を向けずにいる人たちに読んでほしい小説がある。『わたしたち、何者にもなれなかった』(瀬那和章/KADOKAWA)は、夢やぶれたアラサー女子たちが過去と向き合うビターな物語。『under 異界ノスタルジア』で第14回電撃小説大賞〈銀賞〉を受賞し、『雪には雪のなりたい白さがある』などの著作で知られる瀬那和章氏によるこの物語は、瀬那氏の新境地ともいえる。

 何者にもなれないまま大人になってしまったことへの絶望。青春のほろ苦さ。マウントを取り合うことしかできない女子会…。アラサー女子のイヤなところを巧みに描き出したこの作品は、読んでいて胸が苦しい。だが、先を読まずにはいられない。「イヤミス」的な要素がクセになり、読む手を止めることができない作品だ。

 主人公は、映画専門誌『キネマコープ』副編集長の夏美、34歳。恋も仕事も思うようにいかない日々の中で、彼女は、ことあるごとに、石田サキとの日々を思い出していた。それは、高校時代の仲間、シングルマザーの弥生、不妊治療に苦しむ佐和子も同じだった。映画監督としての才能に満ちあふれていたサキとともに自主制作映画を撮り、商業映画を撮ることを夢見ていた日々。コンクールで入賞したり、ミニシアターで期間限定上映をしたりと、夢に向かって順風満帆に進んでいた、はずだった。だが、突然、サキは3人に何も告げず、消えてしまった。あの時、サキがいなくならなかったら、今、こんなに苦しい思いをすることもなかったのに。今頃プロになれていたはずなのに…。12年の時を経て、夏美のもとに、サキの居場所を知らせる、暗号めいた電話が掛かってくる。なぜサキはいなくなってしまったのか。サキは一体どこにいるのだろうか。

 サキの存在は、仲間たちにたくさんの夢を見させた。夏美は役者として仲間に加わり、後には調整役として、弥生はカメラマンとして、佐和子は映画の楽曲の作曲で、サキを支えた。最高のチームだったはずなのに、なぜ彼女はいなくなってしまったのか。夏美たちだけでなく、本を読む私たちも、どんどんサキの魅力にはまり込んでいく。彼女が胸のうちに抱えていた不安や孤独が明らかになるつれ、息をするのも苦しい。

 私たちはいつまでもあの頃のままじゃいられない。だが、あの頃の自分と、向き合わなくては、きっと前には進むことができない。読後感は不思議とさわやか。読み終えれば、きっと、あなたも前向きな気持ちになる、大人のための小説がここにある。

文=アサトーミナミ