コンビニに入れない、メールも使えない…『舞妓さんちのまかないさん』で知る花街のタブーとは?

マンガ

公開日:2019/3/21

『舞妓さんちのまかないさん』(小山愛子/小学館)

 3月に入り、段々と暖かくなってきた今日このごろ。春の行楽シーズンに向けて、日本中の観光スポットが準備に大忙しの季節がやってきました。なかでも、日本屈指の観光地である京都には、国内外から大勢の観光客が訪れるため、この時期は例年大盛況です。

 ところで皆さん、京都といえば、何を思い浮かべますか。お寺もグルメも外せませんが、やっぱりアレですよね。そうです、舞妓さんです。

 しかし、京都をただ歩いていても、舞妓さんに出くわすことはほぼありません。筆者はその昔、修学旅行で京都に行った際に、現地のガイドさんから「運が良ければ、舞妓さんが歩いている姿を拝めるかも」と言われたことを覚えています。

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 では舞妓さんは普段どこにいるのか。どうやって生活しているのか。そんな疑問を解決できるのが、『舞妓さんちのまかないさん』(小山愛子/小学館)という作品です。3月12日に最新刊9巻が発売されました。

 この漫画の主人公は、野月キヨ。16歳の女の子です。中学卒業後、舞妓さんになるべく、青森から京都の置屋へ入ったキヨですが、舞妓さんになる素質が皆無だったため、置屋の女将さんから早々に「おとめ」、つまりクビを言い渡されてしまいます。

 ところが、そのタイミングで、舞妓さんたちの食事を用意する「まかないのおばちゃん」が、腰痛で引退。その後任にキヨが抜擢されます。その日から、舞妓さんたちにご飯を振る舞う、まかないさんとしての生活がスタートするのです。

●朝から晩まで働きっぱなしのまかないさん

 数十人の舞妓さんがともに暮らす置屋。キヨは毎日3食、全員分の食事を用意します。朝6時に起きて、朝食の用意。8時、食卓についたみんなの食事の世話をします。

 それからお稽古に行く舞妓さんたちを見送ったあと、食材の買い出しに行き、置屋に戻って食事の支度。稽古から戻ってきた舞妓さんに昼食を振る舞ったあとは、またすぐ夕食の準備。お座敷に出る舞妓さんの紅が落ちないよう、おにぎりは一口サイズの小さなものを用意します。

 舞妓さんを仕事に送り出したあとは、台所をピカピカに磨いて、ようやくキヨの一日の仕事が終わります。舞妓さんも忙しいけれど、それを支えるまかないさんも、とっても忙しいのです!

 日々、仕事に稽古に忙しい舞妓さんたちのために、キヨが作るご飯は、見ているだけでお腹が空いてくるものばかり……。ただ、舞妓さんという特殊な職業であるため、普通のお料理漫画にはない描写がいくつも出てきます。

 たとえば、舞妓さんの置屋がある花街では、家庭を思わせるものはタブー。家庭料理の定番ともいえるカレーを作ることができません。客である男性に里心がつくと困るからです。また、匂いのキツいニンニク料理も、月に2回あるお休みの日にしか口にできないという決まりがあります。

●一般人は知らない花街のルール

 食事面のほかにも、舞妓さんたちが暮らす花街には、知られざるルールがいくつもあります。たとえば……。

★屋形に出入りできるのは数少ない男性
 舞妓さんが暮らす屋形は、基本的に男子禁制ですが、例外もいます。それが、男衆(おとこし)と呼ばれる人たちです。彼らの仕事は、舞妓さんの衣装を着付けること。重さ20キロにもなる衣装を着付けるのは、力のある男の仕事なのだそうです。

★初日は眠れない!? 舞妓さんの睡眠事情
 舞妓さんは、朝から晩まで髷(まげ)を結って生活します。ほどくのは週に1回、結い直してもらうときだけで、シャンプーもそのときだけ。しかし、辛いのはなんと言っても眠るとき。舞妓さんは眠っている間に髷を崩してしまわないよう「箱枕」という特殊な枕を使うのですが、慣れるまでは睡眠不足の日が続くそうです。

★連絡手段はメールではなく手紙
 舞妓さんはその姿でコンビニに入ることはいけないとされています。作中では、小腹が空いた舞妓さんが、思わずコンビニに入りそうになり、ぐっと堪えるシーンがあります。また、携帯もパソコンも持たないので、日常的に手紙が使われています。

 一般人には考えられないような数々の制約のなかで舞妓さんは暮らしているのです。

 また、この作品では、キヨが毎回どんなご飯を作るかも見どころなのですが、もう一つ、作品を語る上で欠かせないのが、新米舞妓のすーちゃん(戸来すみれ)です。

 キヨと一緒に青森から出てきた幼馴染のすーちゃんは、同期のなかでも群を抜く才能の持ち主。キヨのご飯に支えられながら、舞妓としてぐんぐん成長していきます。お座敷にあがる舞妓さんの日常を、すーちゃんを通して知ることができます。

 特別何か事件が起こるわけでもなく、ただ淡々と、舞妓さんたちの日常を描く『舞妓さんちのまかないさん』。キヨのご飯に、ホッと癒やされてみませんか?

文=島野美穂(清談社)