「ぼくは、どこまで自由になれる?」スポ根ではない新時代の「体操」青春マンガ!

アニメ・マンガ

2019/3/24

『ムーンランド』(山岸菜/集英社)
『ムーンランド』(山岸菜/集英社)

 放送していると、なぜか観てしまうスポーツに「体操」がある。ルールも出場する選手のこともあまり知らないのに、つい見入ってしまう。

 その理由は、選手の体ひとつで行うダイナミックな技にあるだろう。真剣な「競技」に対して語弊のある表現かもしれないが、サーカスの「大技」を観ているような感動があるのだ。

 だが、それ以上に私が惹かれるのは、技を披露する前の「空気」である。「この試合の、この日のために人生の全てをかけてきた」選手たちの、緊張感とも、極限の集中力とも言える「空気」。私はその目には見えない空気感に惹かれて、つい、体操競技に見入ってしまう。

 その「空気」を、マンガでも味わわせてくれるのが『ムーンランド』(山岸菜/集英社)だ。体操競技をテーマにした少年マンガだが、アテネオリンピックで金メダルを獲った水鳥寿思さんが監修をしているという本格派スポーツものである。

 主人公の天原満月(あまはら・みつき)は、一見文化系のマイペースで風変わりな少年。体操が大好きだが、競技にはまったく興味がなく試合経験はゼロ。「自分の体を100%思い通りに、自由に動かしたい」という欲求だけで、体操をしていた。

 だが中学生最後の「初」試合の際、ジュニアの強化指定選手に選ばれている体操エリート堂ヶ瀬朔良(どうがせ・さくら)に出会ったことで、満月の体操への関わり方が大きく変化する。

 堂ヶ瀬は、貪欲に勝利を追い求める自信家だ。試合に勝てなければ、練習してきた時間も努力も全てムダになると豪語し、弱者に厳しい。

「体操は結果がすべて」の堂ヶ瀬に、最初、満月は反感を覚えるのだが、彼の技を見て衝撃を受ける。

 堂ヶ瀬の体操は、満月の頭の中にしかなかった、「自分の体を思い通りに動かす自由」を体現していたからだ。

 満月にとって、大切なのは「結果」ではない。だが、その結果を重要視している堂ヶ瀬は、「自分の追い求める自由さ」を、すでに持っている。――満月は堂ヶ瀬に、ただならぬ興味を抱くようになり、なんと同じ高校に入学して同じ部活に入り(もちろん体操部)、チームメイトになってしまうのだ。おとなしそうに見えて、この行動力。満月は結構ヤバ…スゴイやつなのだ(笑)。

 堂ヶ瀬を追って入部した体操部は、決して強豪とは言えない小さな部活だった。そこで2人は、お互いに刺激を受けながら「自分の体操」を極めていくのである。

 物語はまだ序盤ではあるが、難度の高い技が武器の堂ヶ瀬に対し、自身の体操の完成度を追求する満月、という対照的なライバル関係になっていく予感がする。また堂ヶ瀬の幼なじみの女子体操選手・陽田あかりや、体操の強豪校へ入学した満月の親友・柴田周一朗などが、今後どのように物語に絡んでくるのかも楽しみだ。

 本作は知識のない読者でも楽しめるように、ルールの説明や採点方法にも触れられている。テレビで観ていた時は、「なんかたくさん種目をやってるなぁ」と思っていたが、男子体操には、ゆか、あん馬、つり輪、跳馬、平行棒、鉄棒の全6種目あり、個人総合はその合計得点で争われるそうだ。

 また、各種目の採点はDスコア(技の難しさ)と、Eスコア(技の出来栄え)の2種類の合計点になるらしく、「難しい技をできた選手が勝つ」というだけの、単純な競技ではなかったらしい(そりゃそうですよね…)。

 体操ファンはもちろん、今まであまり興味のなかった方にも、本作を読んでみてほしい。体操を知る――だけではなく、「好き」になるきっかけになるだろう。

文=雨野裾