「働く」ってしんどい? 不自由をガマンすること? 珠玉の名作が肯定する、会社員という生き方

マンガ・アニメ

2019/3/29

『漫画 働くということ』(黒井千次:原作、池田邦彦:漫画/講談社)

 会社って、大変だ。

『漫画 働くということ』(黒井千次:原作、池田邦彦:漫画/講談社)は、会社員全力肯定マンガである。ただし、手放しに肯定してくれるわけじゃない。本書は「自分の職業」というものを読者に問いかける。

 就職。

 それによって人は会社に時間を捧げ、人間関係の自由を捧げ、ときに住む場所の自由すらも捧げる。ああ、しんどい。そして会社はとかく重たい。なかなかどうして、思うようには動かない。お局様ともうまくやっていかなきゃ。伝票なんて、AIとかいうやつでも入れてテキトーにやっといてくれよ。なんて、ふてくされる前に。

 あなたは、あなたの職業をやれているだろうか?

 フリーランス? パラレルワーク? 自由な働き方?

 何でもいいけど、きちんとやることやろうぜ。プライドを持って。周りの評価なんて気にしなくていい。会社なんか嫌いでもいい。もちろん、会社員でなくたって。で、自分の仕事に心を込めているか? 本書からはこういった率直なメッセージが伝わってくるようだ。

 原作者の黒井千次さんは、15年間のメーカー勤務を経て小説家として独立した。数々の作品を発表し、芥川賞の選考委員も25年間務めている。原作の『働くということ -実社会との出会い-』(講談社)は発売から35年以上経った今でも読まれ続けるロングセラーだ。

 本書では、自動車メーカーに勤める主人公・神部万次の“一人称”のストーリーを、池田邦彦さんによるグッと渋みの効いたコミカライズとして読むことができる。

 神部は就職直後、東京を離れて伊勢崎市の工場に配属された。うす汚い社員寮で初めて寝床に就いた彼は、天井を見つめて「あまりに払う犠牲が大きすぎるじゃないか」と絶望する。

「目が痛い! 開いても閉じても痛い!!」といった体験に四苦八苦しながら、神部はさまざまな配属先でもがき、「自分の職業」について悩み抜く。経験するだけでもなく、思考を巡らすだけでもない。その両輪が駆動した境地で彼は、たとえ自分が歯車であっても、全体の中でどの歯車を担っているかを知ろうとする。そしてこう思った。

“人間の自由は不自由を避けたところに生じるのではなく不自由の真っ只中をくぐり抜けその向こう側に突き抜けた時はじめて手にすることができる。”

 ついこぼれ落ちてしまう大切なことを思い出させてくれる本書は、あらゆる世代におすすめしたい1冊である。最後のページで、きっとあなたは「働くということ」をじっくりと噛み締めることになるだろう。

 会社って大変だけど、悪くないかも。さあ、明日も働こう。

文=えんどうこうた