女は“暗闇”で本音を語る! 怨念に満ちたガールズトーク本に共感が止まらない

文芸・カルチャー

更新日:2019/4/8

『くらやみガールズトーク』(朱野帰子/KADOKAWA)

 本をジャケ買い、つまり中身を見ずに購入することがある。タイトルや装丁、帯などを見て、ビビッとくるのだ。『くらやみガールズトーク』(朱野帰子/KADOKAWA)もそうだった。黒地にショッキングピンク、可愛い女の子たちが手を繋ぎ合うガーリーな装丁。ガールズトーク好きなこともあって、わたしは迷わずこの短編集をジャケ買いした。

 …が、読み進めて驚愕することになる。例えば、「鏡の男」という作品。家族の中で生きづらさを感じていた女性が一人暮らしを始める。恋人もできて、ようやく幸せを掴んだかに思えた。しかし、彼は夜になると暴言を吐き(しかも夢遊病のように記憶がない)、徐々に歯車が狂い始める。結局、2人は別れることになるのだが、最後に鏡の中に知らない男の影が映っていて…って、ホラーじゃないか! 装丁と内容のギャップに、わたしはこの小説が大好きになってしまった。

「藁人形」という作品。主人公・祐美は、女性社員に人気の男性と恋仲になる。祐美は彼にのめり込むが、ひょんなことから彼には妻子がいることを知ってしまう。そんなある日、テレビのオカルト番組で「丑の刻参り」について特集されていた。呪いたい人を模した藁人形をご神木に五寸釘で打ち込む。それを7日間、だれにも見られずに続ければ、相手を呪い殺すことができるという。軽い気持ちだった。写真を撮って、彼の奥さんに送りつけるだけのつもりだった。しかし深夜、神社でご神木の前に立つと聞こえてきたのだ。「くぎを、うて。ふかく、ふかく、うて」。いやだ、と祐美は思った。「私はそこまで落ちたくない」。

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「私はそこまで落ちたくない」――。この台詞に、胸が締め付けられる思いがした。結婚や出産をして幸せそうな友人を見ると、独身のわたしは嫉妬で気が狂いそうになる。いまの生活にそこまで不自由を感じているわけではない。とくべつ結婚をしたいわけでもない。それでもFacebookにアップされた友人の家族写真を見ると、それこそ五寸釘でも打ってしまいたくなる。そんな醜い自分が嫌で嫌でしかたなく、今度は自分に五寸釘を打ちたくなる。

 この短編小説には、そんなわたしへの応援歌が詰まっていた。あなただけじゃない。みんな苦しんでいる。それでも生きていきましょうよ。だって生きていくしか、道はないんだから――。こんなに人に薦めたいと思った本は、久々かもしれない。Facebookに家族写真をアップしている友人には、間違っても薦められないが。

 ちなみに、「藁人形」の続きだが。祐美はふと、ご神木に新しい藁人形が隠されているのを発見する。胸の部分に名前が書いた紙が貼ってあった。その名前とは…。

 生きていくのは、恐ろしい。

文=水野シンパシー