「女の子らしく」「適齢期になれば結婚」を見つめ直す――“様々な生きづらさ”からの解放を描く『あたしたちよくやってる』
更新日:2019/4/8
周囲の目を気にせず「自分の希望する道を突き進もう!」と決意しても、それは時としてとても困難なことであるように思う。キャリア、結婚、出産――。20代後半で、これらのライフイベントのことを考えると、必ず「年齢」や「世間的な体裁」で大いに悩んだ記憶がある。加えて、両親が孫の顔を見ることを楽しみにしている現実や、周囲がどんどん結婚して、子育てを開始する様子を見ていると、自分の夢や自信など、いともたやすくポキッと折れてしまうのだ。自分の人生のはずなのに……。
山内マリコさんの『あたしたちよくやってる』(幻冬舎)は、そんな女性たちの悩みや不安に向き合いつつも、これまで「常識」とされていた生き方に疑問を呈することで、呪縛から解放してくれるような爽快さを持つ短編+エッセイ33編が収録されている。
本書は、最初に登場する短編「How old are you?(あなたいくつ?)」から、ハートを揺さぶる名言が連発で、しばし呆然となった。
物語は「あたしって本当はパンクな女の子だったんだよ」とつき合って2年の彼氏に「あたし」が訴えるシーンから幕を開ける。主人公は、田舎町で暮らす28歳の独身女性。地方の新聞社に勤める、田舎じゃ優良物件の彼氏がいるため、本当はパンクな格好が好きなのにもかかわらず、無難な髪型と服を選ぶようになった。
「田舎町に住むまともな28歳の女は、結婚して子供の一人でも産んで、郊外の建売住宅に住んで家事と子育てに勤しまなきゃいけないから」。そんな価値観に縛られていたのだが、彼女はある映画を観たことで「ファッションデザイナーになる」という夢から目を逸らすことができなくなり、彼氏の前で自分のコンサバティブなブルーのストライプシャツをビリビリと引きちぎるのである……!
その後の目まぐるしく、思わずニヤニヤしてしまった展開は、ぜひ本を読んで確かめていただきたいのだが、本書は全編を通して、様々な選択を早めに強いられる女性をタイトル通り「よくやってる」と励ますような内容であった。
「女の子らしく」「適齢期になれば結婚」という価値観を様々な方向から見つめ直すことで、目から鱗が落ちることもあれば(そういえば、友達と生きていく選択肢だって別にありなのだ)、「楽しい孤独」というエッセイのページでは、「結婚イコール幸せ」は明らかな幻想でもあることを指摘しており、思わず大きく頷いてしまった。……かといって、結婚が不幸かと問われればそんなこともなく、二人きりの「居心地のいい、楽しい孤独」が築ける喜びに言及していたのも印象的である。
「自分らしく」生きようとすることは、男女共に、痛みを伴う行為でもある。後ろ指を指されることや、身近な人に悲しい顔をさせることもあるだろう。だが、特別な人間にはならなくとも、誰かのためではなく他でもない自分のために生きる時期があっても良いことを、本書は温かく伝えてくれる。少しばかり高いところから人生を見つめることで、色んなことがずいぶん楽になるのかもしれないなあと前を向ける一冊であった。
文=さゆ
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