樹木希林からの手紙――相手にまっすぐ誠実に向き合う手紙から彼女の生き方を読む

エンタメ

2019/3/30

『樹木希林さんからの手紙 人生上出来!と、こらえて歩こう』(NHK『クローズアップ現代+』+『知るしん』制作班/主婦の友社)

 重い病と闘いながらも、凛とした生き様と独特のユーモアセンスで人々を魅了し続けた女優・樹木希林さん。2018年、惜しまれつつ世を去られたが、生前の言葉をまとめた本がベストセラーになるなど、今なお多くの人々が「樹木希林」という人に惹かれ続けている。

 実はそんな樹木さんは、「手紙の名手」でもあり、多くの一般の方々に直筆の手紙をしたため心を通わせていた。お礼を伝える手紙、相手に寄り添う手紙、人生を応援する手紙…ユーモアと温もりにあふれた手紙たちは、いまでも受け取った方々の大切な宝物となっているという。没後、そうした手紙がNHKの番組で特集され話題となったが、このほど出版された『樹木希林さんからの手紙 人生上出来!と、こらえて歩こう』(NHK『クローズアップ現代+』+『知るしん』制作班/主婦の友社)は、それらの手紙をめぐる取材エピソードを番組スタッフがまとめた1冊だ。手紙が伝える言葉の強さだけでなく、その丁寧な人柄にあらためて感動するのは間違いない。

 たとえば介護の仕事をしながら「いじめ撲滅」活動を続ける旭川の中島啓幸さんが紹介するのは、いじめをテーマに子どもたち宛てに書かれた手紙だ。長年、樹木さんの文通相手だったという中島さんが、「生半可なことではない」としぶる樹木さんにあえてお願いして書いてもらったものだという。

「ひとりひとり違って生まれる 当然差別がある
 いじめはちがいから起きる
 わたしも人をいじめたし いじめられたし
 それを亡くそうたって――ねぇ
 はてしのない道のりです
2016.8.5 樹木希林

追伸 じゃあさ皆で 同じ形のロボット人間に――
――それじゃ つまりませんネェ」

 そこにあるのは有名人による安易な励ましではなく、「自分もいじめたことがある」と告白するひとりの大人の姿。道のりの厳しさを吐露する正直さが、子どもたちの心にまっすぐ届いたのだろう。中学生たちはこの手紙をきっかけに、熱心に議論を重ねていたという。

 また2016年に長野県上田市にある「無言館」の成人式で、式に参加した25人の若者たちそれぞれに樹木さんが送った直筆の手紙も印象的だ。手紙はいずれも彼らが事前に答えたアンケートに目を通した上で、一人一人の未来をみつめて書かれた。

 たとえば教師をめざす勝田ゆり乃さんには

「それぞれの性質によく耳をかたむけ聞いて その子が一番輝く場所を共に探す、教育って教えるだけでなく 寄り添い 共に育つことかもしれない」

 と言葉を寄せ、介護の道へすすむ澤田大地さんには

「年をとると人間が成熟するとは大間違い、
 不自由になった分だけ文句が出るの 自分を見てるとよく解る(73才)
(中略)とにかく「仕事を面白がる」デス」

 とエールを送る。命の実感のこもった樹木さんの言葉は若者の背中を押し、いまでも彼らの大切な宝物となっているという。

 数々の手紙から伝わるのは、自らの人生から紡いだ言葉だからこその確かさと、嘘のない強さ。相手に思いをめぐらせ、会ったことのない人であってもきちんと向き合う誠実さ――自分にも相手にも「真摯」であり続けたのが、樹木希林という人なのだ。私たちが学ぶべきことはまだまだありすぎる!

文=荒井理恵