愛はあるのにすれ違ってばかり……夫婦のモヤモヤを解決するのは、「温かい食卓」を囲むこと

マンガ

公開日:2019/4/7

『腹が減っては夫婦はできぬ』(藤原撫子:マンガ、SHIORI:レシピ/講談社)

 お互いを好きになって夫婦となり、理想の生活を築くはずだったのに、次第に会話がなくなったり、ちょっとしたことですれ違ったりしてしまう。「恋愛と結婚は大違い」と、筆者の周辺にいる既婚者たちは一様に口をそろえるが、なんだかんだと別れもせず生活を共にしていけるのは、人知れず夫婦間で対話を繰り返し、食卓を囲んでいるからなのではないかと思っている。

『腹が減っては夫婦はできぬ』(藤原撫子:マンガ、SHIORI:レシピ/講談社)は、9組の夫婦の姿を描くオムニバス形式の物語だ。夢や理想を持って結婚したはずの夫婦のすれ違いや、お互いが抱えるしんどさに触れつつ、温かな食事と優しい会話が、家族としての新たな関係を感じさせる。頼りない夫にモヤモヤしたり、妻の葛藤に「しっかり! 頑張れ!」とエールを送りたくなったりするが、どのお話も読後はスッキリと優しい気持ちになる。

 例えば、第1話「ままならない」に登場する〈さやか〉は、おしゃれで優しい夫の〈りょう〉と、生まれたばかりの〈桃〉との生活を、

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理想を手に入れたのだもの 私は幸せ

 と自分に言い聞かせるように噛みしめるが、どこかスッキリとしない気持ちが見え隠れする。

 ある日、りょうの提案で元同僚を招いたホームパーティーでも「理想の生活ってかんじ」と褒められるが、モヤモヤとした気持ちは変わらない。素敵な部屋に素敵な旦那、センスのいい奥さん、かわいい娘。すべてがそろっているはずなのに、さやかの顔は晴れないのだ。思うとおりにならない子育てや家事、ホームパーティーまでは散らかったままだった部屋、そのことに気づかない夫。パーティーが終わると、彼女はついに夫に泣きながら訴える。

違う これが幸せなのかもしれない けど でも…

 夫はもちろん、彼女自身も「幸せとはなにか」という答えは持ち合わせていない。それは、家族としてひとつずつ課題を克服しながら得ていくものなのだろう。

 それぞれの物語に登場するメニューは、『作ってあげたい彼ごはん』シリーズが累計400万部のベストセラーとなっている人気料理家・SHIORIさんが担当。各話の最後に、「夫婦が“もっと仲良くなる”レシピ」として、詳しい作り方も記載されている。食卓に変化をつけたいとき、気軽に美味しいものを作りたいとき、大いに参考になりそうだ。

 最終話では、SHIORIさん自身がモデルになっているのではないかと思えるストーリーも登場する。夫婦関係に迷い、戸惑いながら、食卓の準備をする主人公がどんな答えを導き出すのか。それは本書でぜひ確かめてほしい。

文=油井康子