「皆さん、先生は夫のちんぽが入りません」マンガで描かれた“叫び”。『夫のちんぽが入らない』第2巻

マンガ

公開日:2019/4/10

『夫のちんぽが入らない』(こだま:原作、ゴトウユキコ:漫画/講談社)

 マンガ版『夫のちんぽが入らない』(こだま:原作、ゴトウユキコ:漫画/講談社)第2巻が発売された。

 第1巻では、鳥居さち子と倉本慎、ふたりの馴れ初めが描かれた。マンガとしてビジュアルがあるからこそ、増幅するときめきもある。巻末おまけの往復書簡では、ゴトウ先生がこの作品を、著者のこだま先生に向けた「ラブレター」と称していたが、まさにマンガ版『夫のちんぽが入らない』は原作への最大のリスペクトのもとに作られていた。過度な演出は一切なく、ストーリーに忠実に基づいて進められながらも、原作では空白だった部分の情景を漫画という表現で色鮮やかに描く。

 そして、第2巻。

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 楽しみと不安が半々の心持ちで、私は続きを待っていた。原作を読んでいる人なら、同じような気持ちで待つ人も多かったのではないか。原作でいうところの第2章。社会人編が始まる。この社会人編が、とにかく救いがないのだ。

 2度目に赴任した学校で、さち子は初めての学級崩壊に直面する。昨日までは素直に自分のいうことを聞いていた子どもたちが、突然手のひらを返したように教室を荒らし始める。教壇の上はゴミ箱がひっくり返され、黒板にはチョークで書かれた罵詈雑言が並ぶ。主犯格の子とうまく和解したいと思うが、うまくいかず、むしろこじれてしまう。

 一方、同様に別の学校で教師をしている慎は、その奔放さから同僚からは疎まれながらも、生徒とはいい距離を保ちながら、独自のスタイルで授業を繰り広げている。

 同じ仕事をしている夫と自分とでは、教室で目の当たりにする風景が天国と地獄の差。次第に学校に行くと気分が悪くなってしまう。トイレに行って、吐いてから教室に行く日々。

 では、家だったら安らげるのか、といえば、そういうわけでもない。依然として「ちんぽが入らない」という課題はそこに佇んでおり、それは誰に責められているわけではないが、着実に彼女の心を蝕んでいる。

 全体的に、1巻よりも暗く重たい現実が続くが、その中でも明るくてあたたかい時間が差し込まれることに、ゴトウ先生からの愛を感じた。急遽チーズフォンデュを食べる夜の話とか、もうこれだけで十分に救われる。

 また、第2巻に収録されている、9話目「落日I」のあるシーンに、私は胸がすく思いがした。保護者会で生徒の母親たちから「赤ちゃんはまだなの?」と次々に問われる場面だ。

 原作では、無礼な彼女たちへの当時の鬱憤を、

大きな声で言い放ち、和やかな空気を一瞬で凍りつかせたい衝動に駆られる。
みなさん、先生は夫のちんぽが入りません。

 という表現で描いている。それが、マンガでは学校の屋上でひとり、腹の底から「皆さん、先生は夫のちんぽが入りません」と叫ぶさち子の姿が描かれる。あのときは叫べなかった彼女の叫びを、いまさち子が代弁したかのようで、胸に熱いものがこみ上げた。

 原作の魅力を最大限に活かしながら、それをマンガ作品として新たに昇華させているゴトウ先生の手腕には、確かに作品もといこだまさんへの深い理解と愛情がある。大好きな作品が形を変えて、さらに素晴らしい副産物を生み出していく姿を、私はこのコミカライズのおかげで知ることができた。

第1巻のレビューはこちら

こだま先生×ゴトウ先生の対談はこちら

文=園田菜々