5分で心をスッキリ! おやすみ前に読める“本当にあったいい話”

文芸・カルチャー

公開日:2019/4/7

『眠る前5分で読める 心がスーッと軽くなるいい話』(志賀内泰弘/イースト・プレス)

 突然ですが、職場やプライベートでモヤモヤとした想いを抱えてしまった時、あなたはどうやって気持ちに整理をつけていますか? ストレスの発散法は、人によってさまざま。誰かに吐きだすことで気持ちに折り合いをつける人もいれば、ひとりでじっくりと考えて答えを出す人もいます。しかし、どれだけ思い悩んでも心の重荷が軽くならない時は、本の力を借りてみるのもよいかもしれません。

『眠る前5分で読める 心がスーッと軽くなるいい話』(志賀内泰弘/イースト・プレス)は、心がスッキリする40の物語が収録されたショートストーリー集。おやすみ前の5分で読めるので、多忙な方も手に取りやすいはず。本作に掲載されているのは、どれも本当にあった話だからこそ、明日への希望や勇気がより見いだせるのです。

 生きていると、苦しいことや辛いこと、悲しいことなど心が傷つく出来事にたくさん遭遇してしまいます。しかし、「この世も捨てたもんじゃない」と思えるエピソードに出会えたら、自分の日常も今より少しは愛しく感じられるようになるはず。本稿では、40の物語の中でも特に勇気を貰える“義足のランナー”の話をご紹介いたします。

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■義足のランナーが見つけた“自分を幸せに導く3つのルール”

「幸せになりたい」という気持ちは誰の心の中にもありますが、幸せの正体はあやふやであいまい。それなのに、私たちはただ漠然と「幸せが欲しい」と願ってやみません。そうやって、幸せを追い求めすぎて苦しくなってしまった時は義足のランナー・島袋勉さんの人生観に耳を傾けてみませんか?

 島袋さんはホノルルマラソン、ニューヨークシティマラソン、東京マラソンなどといった数々のマラソンを完走。マラソン以外では、愛知県の知多半島から鹿児島までを自転車で完走した経験もあり、現在もアクティブなチャレンジを続けています。

 島袋さんが両足を無くしたのは、今から18年前の2001年4月のこと。電車の踏切事故に遭った当初は絶望感に襲われ、「義足をはいたら歩けるようになる」という看護師の言葉にも苛立ちを覚えました。しかし、リハビリ時に電話越しで聴いた母親の一言を機に、彼の考えは大きく変化します。

“母親は「そんな痛い思いをして、何も学ばなければただのバカだよ。アハハハハ。」と笑って言いました。島袋さんは、その笑い声を聞いて思いました。自分は、何と言ってもらいたかったのか? 長く病院生活を続けていると、すっかり同情の言葉に慣れてしまう。「痛いでしょ。大丈夫? 」と言われることを期待していたことに気づきました。”

 傷の周辺を氷で冷やしながら痛み止めを飲み、座薬まで使用して痛みに耐えていた島袋さんは母親の言葉によって、甘えている自分がいたことを自覚。それを機に、日々の努力の中から何かを学ぼうと意識するようになりました。

“「痛みは怖くない。怖いのは歩けなくなることだ」と歩行訓練を続けました。朝、6時に起きると病院の周りをぐるぐると回って歩く練習をします。長時間歩くと切断部分に傷ができ痛くなる。それが看護師さんに見つかると包帯を巻かれるので、「痛くないフリ」をしますが、結局バレてしまう。”

 義足をはくと島袋さんは猛烈な痛みに襲われましたが、包帯を巻かれると義足がはけなくなるため、自分の心に喝を入れながらリハビリを継続。その結果、普通の生活が送れるようになっただけでなく、マラソン完走という偉業も成し遂げたのです。

 彼の努力に触れると、幸せは自分の手で生み出していけるものだと思えてなりません。悩むよりも、まずチャレンジ。――島袋さんは自分の人生や生き様を通し、私たちにそう教えてくれているのです。

 そんな彼が語る“自分を幸せに導く生き方のルール”には、感慨深いものがあります。
(1)無い物ねだりをしないこと
(2)言い訳をしないでおこう
(3)自分の悪いところは隠さないでおこう

 両足を失ったことで、より自分らしい生き方をしようと考えた島袋さんは金属製の義足を隠さない「短パンスタイル」を貫き、現在も多くの人たちに勇気を与えています。

 私たちは予期せぬ不幸や不運に見舞われると、現状を嘆いてしまうもの。しかし、いまを嘆いてばかりでは、未来は変わりません。未来の自分を幸せにしてあげられるのは、現在の自分だけ。島袋さんが見つけた幸せのルールは、「いまの自分でどう生きていくか」を考えるきっかけも与えてくれます。

 心がほっこり温かくなり、ホロリと泣ける40のショートストーリーは疲れ切ったあなたを元気づける“心のビタミン”に。スッキリした後は、きっと人生を見つめ直したくもなるでしょう。

文=古川諭香