日が暮れると「女子」になってしまう男子高校生の苦難とは?『彼は彼女に変わるので』

マンガ

更新日:2019/6/13

『彼は彼女に変わるので』(原作:中てい、作画:壱崎煉/小学館)

 何かを隠している人間というのは、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出してしまうものだ。バレないように、ということにばかり気がいって、誰かと話していても上の空になってしまう。ずっとリスクを背負っているプレッシャーからか、つい仏頂面になってしまう。

『彼は彼女に変わるので』(原作:中てい、作画:壱崎煉/小学館)の主人公・鹿山伊織は、その目つきの悪さや口数の少なさ、雰囲気の悪さなどから、クラスでは浮いた存在の男子高校生。毎日授業が終わればさっさと学校を出てひとりで帰ってしまうため、放課後友達と遊ぶこともなければ、クラスの係などを任されても無視して他の人に迷惑をかける始末。

 一見「単なる素行の悪い生徒」のように思えるが、しかし彼には重大な秘密があった。

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 なんと、日没とともに彼の肉体は女性の姿へと変貌してしまうのだ。日が暮れると同時に、今までどこに隠していたのかと思うほど大きな乳房が出現し、骨格や雰囲気も女性のようになってしまう。これは鹿山家一族にかけられた呪いと関係しているようだが、原因については不明。むしろ成長するにつれて女性の肉体に変わる頻度が上がるなど、あくまで性自認が男である彼にとっては不可解な現象ばかりが起こるのだ。

 そんな鹿山と、2人の少年との関係が物語を大きく動かす。

 ひとりは、派手で女の子からモテるクラスメイトの綾瀬。文化祭の準備係で一緒になったものの、日没前には帰ってしまう鹿山のせいで一方的に仕事が押し付けられる。頭にきた綾瀬はなんとか鹿山を痛い目に合わせたいと思っているうちに、2人の距離は接近。綾瀬は鹿山のことを少しずつ意識し始めるようになる。

 もうひとりは、中学時代に仲の良かったクラスメイトの森だ。鹿山と森はある日喧嘩をしてしまい、それからは一言も口をきかない険悪な仲になってしまった(その理由は後ほど明かされる)。日没に間に合わず校内で女性の姿になってしまった鹿山は森と遭遇し、転んだ拍子に胸を触られてしまう。鹿山だと気づかなかった森は、それ以降「その女子高生」を学校で探し回るようになるのだ。

 日中は男だが、夜は女。そんな鹿山と男2人の奇妙な三角関係は、物語が進むにつれて複雑に入り組んで行く。というのも、2巻と3巻がそれぞれ「綾瀬ルート」と「森ルート」という形で分岐しているのだ。綾瀬にときめいた人は2巻を、森にときめいた人は3巻を選ぶと、鹿山とその相手がハッピーエンドを迎えるルートになっているという、乙女ゲームのような仕組み。しかし、それがまったく違う世界線の話という感じではなく、1巻から順に読んでも物語はつながっていくのでおもしろい。私は普通に2巻から3巻へと進んだが、2巻とは矛盾しないような描写とともにストーリーは展開していくので問題なかった。

 綾瀬と森はともに鹿山のことが好きだが、その想いの寄せ方には少し違いがある。女の鹿山が好きなのか、男の鹿山が好きなのか、そして、鹿山は一体これからどう肉体が変化していくのか。同時に「鹿山家の呪い」も少しずつひもとかれていく気配もあり、今後の展開がさまざまな点で気になる作品である。

文=園田菜々